2019年5月26日(日)

漢方の生薬確保 人工栽培技術を磨き、中国リスクに備える
編集委員 矢野寿彦

2010/10/29 7:00
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高齢化社会の進展で漢方薬の需要は今後着実な伸びが見込まれている。野村総合研究所のリポートによると、漢方薬の国内生産額は2015年には07年(1131億円)に比べてほぼ倍増し、2000億円超になるという。

三菱樹脂が人工栽培に成功した生薬のひとつである甘草

三菱樹脂が人工栽培に成功した生薬のひとつである甘草

漢方薬の原料となる生薬は9割弱が輸入品で、その大半を中国に頼っている。レアアース(希土類)ならぬ「レアプラント(希少植物)」という言葉も登場。新たなチャイナリスクに備え、生薬の国産化を推し進めようと、人工栽培技術を磨く動きも出てきた。

生薬には鉱物由来や動物由来のものもあるが、その多くが植物、いわゆる薬草だ。漢方薬は、農家が生産したり自然に成育したりした生薬をメーカーが調達し、乾燥や調合、加工して作る。

医療用漢方薬最大手のツムラの場合、現在129種類の漢方薬を作っており、118種類の生薬を利用しているという。

生薬の調達先は海外に大きく依存している。日本漢方生薬製剤協会によると、国内生産は12%にとどまり、中国からの輸入が約8割を占める。その中国産生薬の価格はここ数年、世界の需要増から上昇傾向にある。過去5~6年で1.5倍になったとの報告も出ている。

特に価格変動が著しいのが生薬のうち約5分の1を占める野生品だ。例えば、漢方薬のおよそ7割に使用されている甘草。欧米での需要も旺盛だが、2000年以降、中国政府は砂漠化につながる乱獲の防止を理由に、生産・出荷を規制し、供給が細った。今でも需給が逼迫(ひっぱく)した状況が続く。

こうしたなか、三菱樹脂は10月から、これまで難しかった甘草の人工栽培を実用化するための研究開発にグリーンイノベーション(東京・中央)と共同で乗り出した。

すでに独自の人工光・閉鎖型苗生産装置を使って種子から苗を作製することに成功、野生品と同様の薬効成分が含まれていることを確認したという。今後は「節培養」という一種の接ぎ木技術を応用し、量産化のための栽培技術を確立させる計画だ。末松優・農業資材部部長代理は「3年ぐらいで甘草の商品化を実現したい」と意気込む。

中国は知財戦略の一環として中医学(日本の漢方にあたる伝統医学)の「産業化」を積極的に推し進めている。生薬を巡る争奪戦のような事態はまだ顕在化していないが、安定調達をゆるぎないものにするためには、日本は「レアプラント」育成技術の研究開発を今から加速させておかなければならない。

厚生労働省研究班による「漢方・鍼灸(しんきゅう)を活用した日本型医療創生のための調査研究」は今年2月、生薬の国内栽培促進策を打ち出した。国内栽培の基盤整備や従来型農業の活用に加え、植物工場やバイオ技術を駆使して、2025年までに生薬自給率を50%まで引きあげるよう提言している。

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