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海からエネルギー問題に挑む 人工島など構想着々

海に囲まれた日本で、海上構造物でエネルギー・環境問題を解決しようとする試みが活発になってきた。洋上風力発電など足元の実証実験の動きもあるが、さらに壮大な構想が具体化しつつある。清水建設が打ち出した「グリーンフロート」は大規模な海上浮体構造物を作り、エネルギーは太陽光発電と海洋温度差発電を利用、建設資材には海水からマグネシウムを抽出して使い、植物工場で野菜などを栽培する。エネルギーも食料も自活する構想だ。

9月28日に都内のシンポジウムで講演した清水建設環境・技術ソリューション本部の竹内真幸本部主査は「地球の70%は海。都市よ、可能性を秘めた海に出よう」と構想の意義を訴えた。

グリーンフロートは海上に浮かぶ直径3000メートルの巨大な人工島を作り、その上に高さ1000メートルのタワーを建設、上層部は人が住む空中都市とし、低層部分は植物工場にする。水辺にも人が住み、5万人が居住する島を中核に周辺にも小型の人工島を設け10万人の都市を1つの単位とする。太陽の恵みが最大で、台風の影響が少ない赤道直下に浮かべる構想だ。

2008年に発表した全体像は総合建設会社らしい巨大建設物だが、中身の個々の技術は現在の環境分野の研究成果を集大成しようというもの。派手な構想とは裏腹に、関係者は地道に実現に向けた作業を続けている。

清水建設は10年に野村証券、産学官連携でイノベーションを担う博士を育成するスーパー連携大学院協議会と組み、グリーンフロート構想研究会を発足、11年からは3カ月おきに報告会を開き、個別分野の研究をしている大学や企業と情報交換し、個別の要素技術の実現可能性を探っている。

例えば宇宙太陽光発電システムは、宇宙航空研究開発機構が研究中。マグネシウムの活用は東北大や東工大が研究。植物工場は明治大や東京農工大の研究を参考にしている。韓国やオーストラリアなど海外にも構想を発信。砂地で稲を栽培するワーキンググループも設置した。

事業費は1都市で20兆~50兆円かかり25年に着工、30年以降の一部稼働を目指している。スーパー連携大学院の丹治規行運営委員は「大学院生にとって幅広い研究テーマになる。日本のアポロ計画だ」と語る。竹内主査は「来年から海洋土木や効果的な波浪対策など建設時の課題や、一気に全体ではなく、部分的にグリーフロート構想を実現する可能性も検討する」という。

野村証券のグループ会社の野村リサーチ・アンド・アドバイザリーの平沼亮シニアリサーチオフィサーはシンポで「年間2兆5000億円の付加価値が生まれる。20兆円の投資資金を調達したい」と経済面からの可能性を訴えた。付加価値は生命科学・医療用植物などで8000億円、マグネシウムやレアアースの生成で3500億円などを見込む。

 海上浮体構造物に研究中の技術を集約しようというグリーンフロート構想に加え、その核となる浮体構造物自体の技術は着実に進歩している。

9月24日、佐賀県伊万里市の佐賀大海洋エネルギー研究センターで開かれた海洋エネルギーシンポジウム。アイ・エイチ・アイ・マリンユナイテッド(IHIMU)エンジニアリング事業部の粟島裕治海洋グループ長は福島沖で始める洋上風力発電と、海洋温度差発電に活用可能な同社の浮体技術を説明した。共通するのはモノハル型と呼ぶ浮体構造だ。

「重心を低くし、構造物の大部分が海中に沈み喫水が深いため揺れが小さい」(粟島氏)。ケーブルを引っ張って海底に固定する方式よりは揺れるがコストは大幅に安くなるという。

同社は福島沖で参加する洋上風力発電の実証実験でこの方式を採用するほか、佐賀大が実験を続けている海洋温度差発電を洋上浮体式で建設する場合、モノハル型を提案する方針。実証プラントを建設する場合、どのような設計になるか佐賀大と研究を始めた。

海上浮体構造物が注目されるのは、陸上より広い場所が確保しやすい点があるが、何より東日本大震災以降「海上の方が地震や津波に強い」と認識されたことがある。粟島氏は「水深が深い沖合ならば地震も津波対策も海上の方が有利」としている。グリーンフロートの清水建設も「海上沖合は安全」と言う。

もちろん海上は漁業関係者との調整が不可欠になるが、実はIHIMUはこの分野で実績がある。同社はマリノフォーラム21から委託され海洋肥沃化装置「拓海」を開発、2000年代半ばに相模湾沖に設置した。栄養分に富む深層水をくみ上げ、浅い海域に漁場を造成しようという試みだ。

約170メートルの取水管は5年の実験期間中損傷することなく深層水をくみ上げた。この時の装置もモノハル型。同社はこの技術蓄積を活用して海洋温度差発電のプラントを設計しようとしている。モノハル型プラントで深層水をくみ上げて発電と海域の肥沃化を同時に進めれば、漁業者にとっても「迷惑施設にならず互いにメリットが得られる」わけだ。

領土である島はもちろん大事だが、海は重要なエネルギー資源。海底熱水鉱床やコバルト・リッチ・クラストなどの深海底の鉱物資源も注目されているものの、深海は技術的ハードルも高い。広大な経済水域を持つ日本は、目の前にある海の恵みそのものをエネルギー問題克服の切り札にできる。

(産業部 三浦義和)

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