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シコー支援のミネベア お家芸 M&A、復活の舞台裏

ミネベアがかつてのお家芸ともいえるM&A戦略を復活させている。8月10日には民事再生法の適用を申請した小型モーターメーカー、シコーの支援に名乗りを上げた。1970年代に数々の企業買収を仕掛けて事業を多角化してきた歴史を持つ同社だが、90年代以降、こうした戦略は鳴りを潜めていた。お家芸復活の舞台裏を探った。

「モアテックを買っていなければ決断しなかっただろう」。ミネベアの貝沼由久社長はシコー支援表明の背景をこう打ち明ける。

モアテックとは今年5月にミネベア傘下に入った韓国有数の小型精密モーターメーカーのこと。主力のデジタル信号によって回転を制御する「ステッピングモーター」は精密機器の制御で主流のモーターで、技術が成熟しているだけに価格競争も厳しいが、同社は量産化で確実に利益を出す。

実は今回のシコー支援を主導したのはこのモアテック傘下でミネベアにとって孫会社となったハイソニックだったとされる。モアテックと同じ韓国に本社を置き、シコーの主力製品だった携帯電話カメラの焦点合わせに使う「AFLモーター」を主力とする。量産の舞台は中国やフィリピンで月数千万台を生産し黒字をたたき出す。

シコーは米アップルからの大量受注に備えて上海工場に大量の労働者を確保したが、受注時期が予定よりずれ込んだほか、モデルチェンジに伴う仕様の変更といった誤算もあり、労務費が収益を圧迫していた。ハイソニック幹部はこうした状況を受けて現地でシコー幹部と直接交渉。ミネベアによる支援の道筋を開いたという。

ミネベアにとってもスマホ向けに需要が拡大するAFLモーターは小型モーター事業の裾野拡大にとっての追い風。シコーが落ちた問題も量産体制が備わっていればクリアできると判断した。

M&Aはミネベアにとって海外展開と並ぶお家芸の一つだ。先駆けはミネベア「中興の祖」と評され、第3代、第5代と社長を務めた故・高橋高見氏。「M&Aの風雲児」と称され、ベアリング以外に持つ計測機器や特機などの部門は70年代に手がけた多くの企業買収によって生まれた。

90年代から鳴りを潜めていた大型のM&Aに動き出す姿勢を鮮明にしたのが今年2月。2014年度までの中期経営企画で日本政策投資銀行と業務提携してM&Aに取り組む方針を策定した。ベアリングなど機械加工分野では500億円規模の買収を想定した社内プロジェクトが進む。

高橋氏の娘婿で09年に社長に就任した貝沼社長は、ミネベアが04年に設立した松下電器産業(現パナソニック)との合弁会社、ミネベア・松下モータで社長を務めた経験を持ち、海外勢の量産化要求の厳しさを熟知してきた。

たとえばHDD(ハードディスク駆動装置)に使うスピンドルモーター。ミネベア製は消費電力が低く高価格帯が原動力だが「量産過程で品質問題が発生し、競合の追い越しを許してきた」(貝沼社長)苦い経験がある。

そこから生み出してきた経営方針が「ブティック(専門)型よりデパート(総合)型」。特定のモーター技術に依存せず、海外勢を含めた幅広いリソースをフル活用する戦略だ。M&Aで他社が蓄積した技術をスピード勝負で取り込み、横展開する。モアテックに象徴される韓国勢の高い量産能力とスピード経営を取り込もうとしている小型モーター事業はその象徴ともいえる。

狙いは「淘汰」の先にある巨大なビジネスチャンス。シコーが製造するAFLモーターはスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)特需の今は群雄割拠時代だが、最大のライバルである日本電産は既に撤退するなど淘汰も進んできた。最後の競争に勝ち抜くことができればアップルや韓国サムスン電子などの巨大スマホメーカーの需要を安定して取り込むことができるというわけだ。

ミネベアでは既に淘汰を生き抜くことで、成長を持続する事業がある。スマホなどに使われる中小型液晶などに使用する「LEDバックライト」だ。国内でこの製品を手がけるのミネベアとオムロンの2社で、世界3強の一角を占めるまでに成長した。「同じスマホ向けで、AFLモーターとのシナジー効果は当然、期待している」(加藤木洋治・専務執行役員)。

ミネベアは小型モーターなどを含む回転機器事業で慢性的な赤字体質に苦しんできた。特に世界シェアの1割を握り、日本電産に次ぐ2番手に付けるHDD用スピンドルモーターの黒字化は長らく課題だったが、既存拠点の生産効率を改善したことや人件費の安いカンボジア拠点の稼働も貢献し、13年3月期から回転機器事業の黒字化が視野に入ってきた。

シコー支援は小型モーターの成長戦略では最終工程。狙い通りに淘汰の波をくぐり抜ければ、新たな可能性が広がりそうだ。

(産業部 川上梓)

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