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運行コースのないバス会社 ムダ削り仕事スマートに

埼玉県中部のときがわ町。田園風景が広がる町に決まった運行コースのないバスが登場した。

乗客ニーズ探る

10人乗りのワゴンタイプ。留まる停留所も走るコースも乗客のニーズに合わせてまちまち。その自由さが受け、乗客数は3倍に拡大、赤字の路線は黒字に転換した。

バスの運行を手掛けるのはイーグルバス(埼玉県川越市、谷島賢社長)。観光業や観光バス事業が本業の同社だったが、2006年に大手バス会社から路線バス事業を引き継いだ。蓋を開けてみると大赤字。立て直しのため「必要な時間に必要な場所だけを走る」方式に切り替えた。

埼玉大学と協力しバスの乗降口にセンサーを設置、どのバス停で何人乗降したかなどのデータを収集し、空で走る定期便が経営を圧迫していることを突き止めた。定期便を減らす代わりにコースは乗客のニーズに合わせ、結果的に走行距離を2万キロメートル以上減らし、コスト削減した。

総務省によると急速に人口が減少する過疎地域を持つ市町村の割合は11年時点で全体の45.1%。00年に比べて約9ポイント上昇した。余裕のない過疎地の行政では抱えられない交通インフラを民間企業がIT(情報技術)を駆使、蘇生させられれば日本の地方は再び元気を取り戻す。

「足の床ずれ、枕を挟むと楽なようです」。介護職員が米アップルのスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)で入居者を撮影、その場で他の職員への申し送り事項を記入する。

石川県七尾市。60歳以上の高齢者の比率が30%を超える同市の介護老人保健施設「和光苑」で、申し送りをスマホに切り替える実験がこの9月から始まった。入居者の食欲や家族の来訪の有無などきめ細かな情報を共通サーバーに蓄積、そのデータを必要な時に引き出し利用する。

これまではノートに職員が手で書き込んできたが、よく使う言葉を優先的に使う機能のついたスマホなら記録速度は向上、記録に費やす時間は3分の1に短縮できると見込む。

産業技術総合研究所の分析によると同施設で申し送りに費やす作業時間は全体の2割を超える。「入居者のケアを手厚くするには仕事の効率化が鍵」(和光苑を運営する社会医療法人財団董仙会の神野正博理事長)。スマホを使えば事務作業のムダを削り、人とのふれあいの時間を生み出すことが可能になる。

日本は全人口に占める65歳以上の高齢者の割合が23.1%(10年)。世界水準で見ると「超高齢社会」だ。高齢化の速度は今後、さらに上がり、介護現場での人手不足はより深刻になる。ITはその問題解決の有効な手掛かりともなる。

接客データ分析

人手不足に直面しているのは介護の現場だけではない。和食店「がんこ」の銀座4丁目店で昨年、不思議な実験が行われた。接客係に位置を把握するセンサーを持たせ仕事中の動きをチェックする実験だ。移動距離や滞在場所、その時間など接客係の動きの詳細なデータを洗い出した。

「接客係が、なんでこんなに事務所を往復しているんだ」。データを調べると、客席で次の宴会の予約を受ける際、空き部屋の有無を確認するため、質問の度に事務所の予約台帳を見に行っていることが分かった。

この結果、空き部屋の有無をその場で確認できる機能付き端末の開発を決めた。注文の入力のほか客の名前から好みの料理や味付けなども検索できる機能も付加、顧客満足度を引き上げる。慢性的な人手不足に悩む飲食業にとっても心強い武器となる。

製造業ではすでに100年前、熟練作業者の動きをストップウオッチで計りながら科学的に管理するなどの取り組みが試みられていたのに対し、サービス産業ではほとんどこうした行動分析は見られなかった。ここに来てのIT導入の動きはサービス業の生産性を高め日本経済全体の底上げにもつながる。

(篤田聡志)

[日経産業新聞2012年10月2日付]

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