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次のジョブズは誰だ 米国の起業最前線

スタートアップスinUSA(1)

1970年代の米アップルやマイクロソフト、90年代のグーグルを経て、世界を変える新興企業「スタートアップ」は第3の波を迎えている。スマートフォンやソーシャルメディアの普及で起業のハードルはぐっと下がった。もう海の向こうのサクセスストーリーではない。あなたも飛行機のチケットを取って、すぐに飛びこむことができる世界だ。

3月初旬、米テキサス州オースティン。スタートアップの登竜門となる全米注目のイベントで、無名だった若者たちが一夜にして喝采とフラッシュを浴びた。

「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)インタラクティブ」は、ツイッターやフォースクエアなど今を時めく企業が飛躍のきっかけをつかんだイベント。毎年、世界中から投資家が数千人規模で駆けつける。

「投資したい、提携したいとあらゆる誘いが来た。まだ信じられない」。約100倍の難関を突破し大賞の1つを受賞したウェイゴー共同創業者兼最高経営責任者(CEO)のライアン・ロゴウスキー(25)は目を輝かせる。

中国滞在が契機

ウェイゴーが開発したのはスマートフォン(スマホ)を看板やレストランのメニューにかざし、瞬時に翻訳するアプリ。日・英・中国語などに対応。眼鏡型端末「グーグル・グラス」に応用すれば海外で迷子にならずにすむ。アップル元CEOのジョン・スカリーや著名投資家ら約10人の審査員をうならせた。

「目の前に広がる中国語の看板を理解できたらいいのに」。きっかけは3年半前の中国滞在だ。アイデアを実現に移そうと電気工学に強い友人と画像処理専門の知り合いを誘い、3人でアプリの開発を始めた。

資金稼ぎのため、開発作業の後にもアルバイトでひたすらプログラムを打ち続けた。アプリ提供を始めてまだ数カ月。スタートアップを夢見ていた1年前は遠い昔のようだ。

米国のスタートアップは今始まったわけではない。アップルの創業は1976年だ。だが21世紀に入って条件は変わった。テレワークで女性は解放され、初期投資がかさんだ製造の世界にも3Dプリンターが現れた。起業のハードルは格段に下がり、そこに埋もれていた才能がなだれ込む。

同じ頃、地球の反対側の東京・秋葉原で、「ホリエモン」こと起業家の堀江貴文と対談する青年がいた。昨年のSXSWでウェブ・アワードを受賞したリープモーションのCEO、マイケル・バックワード(25)だ。

パソコンやタブレットへの入力を、キーボードやマウスではなく手の動きで実現する技術を開発。消しゴムほどの大きさの端末に手をかざすと、その動きをミリ単位よりも細かい精度で遅延なく感知し、パソコン画面の地図やCGがまるで触っているように動く。

米リープモーション、手の繊細な動きに素早く反応しパソコンを操作する技術を開発

米リープモーション、手の繊細な動きに素早く反応しパソコンを操作する技術を開発

「デジタル機器はすごいスピードで進化しているのに、人々は従来通りキーボードを使っていた」。哲学者のような風貌のバックワードはとつとつと聴衆に語りかける。ロケット事業を計画しているというホリエモンは「宇宙船をドッキングする作業に応用できるかも」と持ち上げた。

大学の専攻は哲学。「ロースクールに行って法律家になろうと思っていた」が、学生時代に現在CTO(最高技術責任者)のデビット・ホルツから起業を誘われた。

昨年、米大手ベンチャーキャピタルから3000万ドルの投資も獲得した。今年6月にはソフトバンクグループから日本初の製品が発売される。

会社飛び出す

オースティンから北東へ2500キロメートル。ニューヨークの芸術家やデザイナーが集まるソーホー地区。中古ブランド品の買い取り・販売サイト「マテリアル・ワールド」を創業したのは矢野莉恵(32)と中国系米国人のジエ・ジャング(31)の日中女性コンビだ。創業は12年。「クローゼットのブランド品を処分する手間や罪悪感から女性たちを解放したい」(矢野)と、女性心をくすぐるコンセプトが人気だ。

日中女性コンビが創業したマテリアル・ワールドはファッション業界に新風を巻き込む(右は三菱商事出身の矢野さん)

矢野は三菱商事広報部を経て、ニューヨークに駐在。競争の激しい世界を目の当たりにし「『商事』の外に出たら、自分は活躍できる人間なのかとつくづく自問した」。入社4年で退社し、米ハーバード大ビジネススクールでジャングと出会う。本サービスを始めてまだ1年だが、米東部の日本人起業家といえば「リエ」と名前が挙がるようになった。

十年一日のパソコン入力、外国語看板の洪水、代わり映えのしないクローゼット――。誰もが違和感を感じていたことに彼らが少しだけ敏感だった。新しい力を経済の原動力に育て上げる米国のダイナミズムは、ITバブル崩壊やリーマン・ショックを経ても変わらない。薄日の差し始めた日本が学ぶものは何か。=敬称略

蓬田宏樹、弟子丸幸子、清水石珠実、多部田俊輔が担当します。

 日経産業新聞では4月1日付から8回にわたって1面で「スタートアップスinUSA」を連載します。

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