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「ものづくり魂」を物語に 墨田・大阪の中小、短編映像で伝える

東京・墨田や大阪などの中小企業が自作の短編映像を使って自社をアピールする取り組みを進めている。メディアプロデューサーと組み「東京ダウンタウンクール」、「大阪ケイオス」という東阪それぞれの共通ブランドで自社の紹介映像を作成し、インターネットなどで公開している。技術や数値情報にとらわれない、ものづくりに向かい合う人と会社のものがたりに焦点を当てる。映像製作の過程で自社の存在価値を考え抜き、会社を変えるきっかけにするのが本当の目的だ。

紹介映像はわずか1分半の長さ。時間が短いため動画は少なく写真や文字を活用するが、あっという間に終わるため、それだけを見ても、何の会社かよくはわからない。少なくとも、ものづくりの技術のすごみは伝わらない。

浜野製作所

浜野製作所の映像「最先端のおもてなし」

小高莫大小工業

小高莫大小工業の「愛編む」

映像製作事業の仕掛け人の1人、リブニット製造の小高莫大小(めりやす)工業(東京・江東)の小高集社長は「大事なのは会社に興味を持ってもらい、問い合わせてみようという気にさせること」と指摘する。風船製造のマルサ斉藤ゴムの斉藤靖之社長も「情報が少ない方が心にぐっと入る」という。

マルサ斉藤ゴム

マルサ斉藤ゴムの「笑顔ふくらめ 天まで届け」

取りまとめ役の墨田区観光協会の友野健一広報・メディア開発担当課長は「情報を目いっぱい盛り込むCMではなく、全部見せない映画に近い手法」と語る。

友野氏は映画のロケを誘致するフィルムコミッションを立ち上げようとした時に「ロケ誘致は受け身。両輪として墨田を発信する事業」として東京ダウンタウンクールを考えた。講師に映像製作を手がけるアースボイスプロジェクトの榎田竜路代表社員を招き、2010年から「まち映像プロデューサー講座」を始めた。

榎田氏と墨田区の橋渡し役となったTシャツ製造の久米信行・久米繊維工業社長は、メールやブログなどソーシャルメデアを駆使して事業を伸ばしてきた。「中小企業の資産は3つ。人と言葉と物。経営者や職人の表情と事業のキーワード、使い込んだ道具を映像にする」と語る。

3カ月に6回開く講座はすでに4度開講、40人強が受講した。受講生2人一組で互いの会社をとことん取材、映像を作っていく。「金型とは何か」「ものづくりとは何か」――社外の人に取材されるうちに気付くことも多い。テーマソングは音楽家でもある榎田氏が作曲。統一イメージと一定の型を作った。

数日かける取材の過程で見つけたキーワードとなるフレーズを改めてしゃべらせて撮り直すことはしない。カメラは回しっぱなしだ。

慣れない映像と単純な会社紹介ではない内容に受講生は悪戦苦闘。サトウ化成の佐藤憲司専務は「愛がない」と榎田氏にダメ出しされ、「締め切りが迫りプレッシャーから夢にまで出てきた」という。日本橋梁工業の菊池智美取締役は「具体的な改善点は指摘してもらえない。自分たちで考えるしかない」と振り返る。

久米繊維工業

久米繊維工業の「日常にこそ豊かさを」

榎田氏は言う。「中小企業が売り上げなどの数値情報を発信しても信用されない。誰に頼まれたわけでもないのに何でここまでものづくりをするのか。自ら気付いていない会社の本質を可視化する」

東京ダウンタウンクールでは1分半程度の短編とは別に、約10分の映像も発信できる。こちらは「素人には無理」と榎田氏のアースボイスが製作を引き受ける。費用も50万円ほどかかるが、社長や技術者のインタビューなども入り、会社のことがよく分かる仕組みだ。2つでワンセットという感じだが、榎田氏は「企業が紹介映像を外部に頼めば何百万もかかり1回作ればもう終わりだった。1分半の映像ならば自分で何度でも作り直せる」という。

サトウ化成

サトウ化成の「根っからのものづくり。」

受講者は中小企業後継者を1年かけて養成する「フロンティアすみだ塾」の卒塾生が半数を占める。すみだ塾は家業を引き継ぎつつ、厳しい経営環境に対応するため親の代からの会社の経営を変えようと模索してきた。日本橋梁の菊池取締役は「まず従業員が自分の会社・仕事に誇りを持った」と映像製作の効果を実感する。

ダウンタウンクールは映像製作を通じて経営者自らが変わることも狙っている。映像講座の受講生の中から各社の工場の廃材から売れる製品を作る「配財プロジェクト」という新事業も生まれた。配財プロの中核メンバーとなったサトウ化成の佐藤専務はデザイナーや大阪の企業などに人脈を広げ、これまでにない表面処理の新規事業にも進出した。「従来の枠にとらわれることはない。事業に対する感覚が変わった」と実感する。

観光協会では情報発信自体を支援するため、講座を受けていない墨田区企業などの短編映像も有料で引き受ける仕組みも取り入れている。運営しているダウンタウンクール事業についても「ファッションなど墨田が得意な分野でダウンタウンクール・ブランドを展開できないか」(榎田氏)と映像を超えた新たな検討が始まった。

墨田にやや遅れて大阪でも映像講座が始まった。きっかけは金型会社の新日本テック(大阪市)の和泉康夫社長がある会合で榎田氏に出会い、自社のホームページを見てもらったこと。機械や製品を紹介する内容を榎田氏から「よくあるホームページ。君たち製造業は秘すれば花という言葉を知らないのか」と酷評され、経営者仲間に呼びかけ映像講座を立ち上げた。

新日本テック

新日本テックの「すし屋型ものづくり企業」

各社長がそれぞれ個人単位で出資して新会社「大阪ケイオス」(大阪市、和泉社長)も設立。「ものづくりをものがたりに」と参加企業紹介する1分半の短編映像を発信、英語や中国語、スペイン語版も作った。

ケイオスは中小企業の広報部門として就活イベントや経営者が直接学生に事業への思いを伝える工場もえツアーを開いた。さらに参加企業が特許を含む保有技術を持ち寄り、接合技術などの共同研究や新製品開発など、会社発祥の映像事業を突き抜けてどんどん事業範囲を広げている。

ケイオス参加約20社の経営資源を単純合計すると資本金約4億2000万円、年商約120億円、社員数670人の大所帯。和泉社長は「カンパニー制の大企業に近い中小企業連合」という。

三協製作所

三協製作所の「絆から生まれる新しい創造」

枚岡合金工具

枚岡合金工具の「ものづくりの前に人づくり」

映像講座の動きは東京・八王子や秋田、三重、広島、島根、徳島などに広がっている。榎田氏は「情報は発信するものではなく運用する資産。何を映像でアピールするのか。自分の会社の本質をとことん突き詰めて掘り下げることから始まる」と語っている。

(産業部 三浦義和)

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