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オンリーワンという解

柳沢大輔・カヤック社長

2011年4月、第三者割当増資の実施と社外取締役を迎えることで、カヤックはよりパブリック(公的)な存在になる選択をした。その選択の背景を書こうと思う。

ひとつは確固たる理念と規模の拡大の両立を目指して成功している経営者に出会えたことだ。身近な存在であり一歩二歩先をいく人を知ることで、自分の目指すべき方向が具体的にイメージできるということがある。

僕は、とにかく規模の拡大を目指す起業にはそれほど共感できない。しっかりとした美学を持ち、その美学と規模の拡大を両立している起業家にシンパシーを覚える。

ここ数年、2000年ごろのIT(情報技術)バブル時代に話題となった起業家とは異なるタイプの起業家が活躍するパターンが増えてきた。クックパッドの創業者である佐野(陽光)さん、カヤックの株主でもあり衣料品通販サイト「ゾゾタウン」を運営するスタートトゥデイ社長の前沢(友作)さんなどは、美学と規模の拡大を両立している経営者であり、僕に刺激を与えてくれた。

彼らを見ていて、美学をもったまま規模の拡大を目指すひとつの方法に、競合がいない強い事業をつくるという方法があると理解した。

競合がいるということは、常に他者と比較されてしまうということであり、これが経済的価値という尺度で見ると、その価値は極めて短期的に他者と比較されて判断されるということでもある。一方で、美学や理念といったものは、僕は長期的には必ず経済的にも効果を生むものだと信じているが、短期的に結果が出るとは限らない。

両者が異なる時間軸でおのおの判断されることによるジレンマを我慢し両立するには、他者と比較にならない程に数字で結果を出し、周囲に有無を言わさない状態をつくることがひとつの解。あるいは、他者と比較されないオンリーワンな事業を営んでいるということも解であると思う。

 競合がいるということは切磋琢磨(せっさたくま)するという意味ではとてもよい。また、自分が競合に後れをとっていたとしても「打倒一番手」とわかりやすい目標を立てることも可能だ。

競合と比較されない状況であれば、投資から回収までの時間軸が長くても己の価値判断にのっとった投資ができる。

たとえばスタートトゥデイの前沢さんは、勤務時間を朝9時から15時までの6時間とする制度を導入し「それ以降の時間は自分の生活を豊かにする時間に使ってほしい」と以前雑誌のインタビューで語っていたが、こんな大胆な制度を実行できるのも、他に競合らしい競合がいないからとも言えるのではないか。

そのように考えると、事業においても組織においても、オリジナリティー(独自性)を追求することがもっとも大事だと僕自身は考えるし、企業や個々人がそういった個性を大切にするようになることこそが、心が豊かな面白い社会につながっていくのではないかと考えている。

「自分達らしさとは何なのか?」。最近はとくに、そういった個性を大切にする企業が増えていると思う。ベンチャーだからこそ、事業を当てたらエキサイティングに拡大にチャレンジする企業がいるのは面白い。でもその形だけではなく、その一方で、社会的意義を大切にした上で自分たちのペースにあった成長をする企業があってもよいと考えている。

[日経産業新聞2012年10月26日付]

 この連載は変革期を迎えたデジタル社会の今を知るためのキーパーソンによる寄稿です。ツイッター日本法人代表の近藤正晃ジェームス氏、カヤック社長の柳沢大輔氏、トヨタ自動車常務役員の友山茂樹氏、ネットイヤーグループ社長の石黒不二代氏らが持ち回りで執筆します。
(週1回程度で随時掲載)

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