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軽崩しのVW、2つの思惑 日欧EPA交渉で優遇撤廃を要求

世界首位へトヨタ系に一撃 スズキ揺さぶり再び手中に

日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)締結交渉が24日、都内で始まった。焦点の自動車分野ではEU側が日本の軽自動車の優遇措置などの撤廃を強く要求。この動向を注視するのが独フォルクスワーゲン(VW)だ。世界販売首位を競うトヨタ自動車に一撃を加え、提携解消を巡り調停中のスズキを揺さぶる2つの思惑も垣間見える。

「欧州車と日本車の"均衡の取れた結果"となるよう、交渉を見守る」。欧州自動車工業会(ACEA)の幹部はEPA交渉に関しクギを刺す。

米国メーカーは大型車が主力だが、欧州勢は小型車が得意分野だ。国内新車販売の4割を"優遇"された軽自動車が占める現状を座視するわけにはいかない。環太平洋経済連携協定(TPP)を巡り、日米間でも軽の優遇は問題視されたが、欧州勢は真剣さが違う。

とりわけVWは日本攻略に本気だ。象徴が2012年10月に日本で販売した戦略小型車「up!(アップ)」。輸入車としては破格の最低価格150万円を切り、ガソリン1リットルで23キロメートル走る燃費性能。欧州以外で最初に投入したのが日本というだけでも熱の入れようはわかる。VWは日本での販売台数を18年までに現状の2倍近い11万台を目指しており、日本の小型・軽自動車市場の切り崩しにかかる。

VWはグループの世界販売の3割弱を占める中国販売が好調を維持し、収益寄与度も高まる。あえて日本市場を攻める必要性を疑問視する声もあるが、軽優遇措置を撤廃できれば、トヨタやスズキの足元を揺さぶるメリットはある。

VWは18年までに1千万台のグループ世界販売をめざし、12年は1割増の約930万台に達したが、トヨタに差を付けられた。それでもVWは台数だけでなく「収益性でトップをめざす」(マルティン・ヴィンターコーン社長)のが基本方針。エンジンを含めた部品の共通化では他社に先行し、収益性では優位に立つとの自負があった。

営業利益では、12年度のトヨタは1兆3208億円。VWは115億ユーロ(12年12月期、年末為替レートで1兆3165億円)で競り合っている。軽の優遇が見直されれば、トヨタの軽・小型車の世界戦略の「本丸」であるダイハツ工業の収益にも影響が出る。

スズキには揺さぶり作戦をしかける。両社は09年に提携で合意しVWは今も19.9%出資する筆頭株主だが、スズキは資本・業務提携の解消を申し入れ、現在両社で仲裁手続きが続いている。

VW側はスズキ株については「今は調停中」(ヴィンターコーン社長)と静観中だ。フェルディナント・ピエヒ会長らは「決してスズキをあきらめていない」というのが現地の見方だ。

VWは、再び提携交渉のテーブルに立ち、スズキが牙城とするインド事業などで協力を模索するとみられる。スズキの利益の源泉まで脅かす意図はなさそうだが、軽優遇の見直しを叫び続けるだけで心理的に揺さぶりをかける効果は見込める。

「VWの強さは技術、コスト競争力に加え、政治力。自らの目標達成に向け、あらゆる手段を取る」と経済産業省幹部は解説する。

もっともEPA交渉自体は「かなり難航する」(欧州の日系メーカー幹部)とみられる。ダイハツの伊奈功一社長は軽の税制は「(国際的に高い水準にはなく)優遇税制だとは思わない」と反論。スズキの鈴木修会長兼社長も「欧州は関税を取るが日本は取っていない。こうした不平等を棚に上げて、人様の税金をどうだこうだという前に内政干渉だ」と痛烈に批判する。

日本側はEUに残る10%の輸入車への関税撤廃を求めるが、EU側は日本の出方に応じて関税を引き下げる構え。通商問題を担当するデフフト欧州委員は「満足いく進展がなければ交渉は中止する」と述べ、ACEAもこの方針を全面的に支持する。

欧州側には悪夢がある。韓国との間で11年7月に発効した自由貿易協定(FTA)だ。現代自動車・起亜自動車が欧州に攻勢をかけた。西欧市場の韓国車シェアは13年1~5月期に5.8%と、10年通年から1.6ポイントも上昇した。

日本の軽優遇の撤廃と引き換えに、欧州で約12%のシェアを持つ日本車の攻勢という「返り血」は避けたいところ。ACEA会長を務める伊フィアットのセルジオ・マルキオーネ最高経営責任者(CEO)も「FTAは欧州にとって不利に働いている」と懸念する。

欧州自動車の雄、VWは「軽」崩しでトヨタの足元を叩き、スズキを揺さぶるという「一石二鳥」の展開を狙う。景気回復の遅れる欧州では、自動車を巡る貿易交渉は大きな政治課題だ。日欧EPA交渉がヒートアップしそうだ。

(フランクフルト=加藤貴行、渡辺直樹)

[日経産業新聞2013年6月25日付]

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