震災後100日、鈴木修の決意 「東海地震リスク」と闘うスズキ

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2011/6/28 7:00
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6月15日。鈴木氏は行動に移す。浜岡原発周辺の11市町の首長らとの懇談の場を設けた。懇談のテーマは「東日本大震災を受けた地域経済・産業等の動向」。鈴木氏は懇談の席でこう語りかけたという。「この地域に事業所を構える経営者はみんな、工場の移転を本気で考えていますよ。スズキだってこのまま『地震、津波、原発、液状化』の四重苦を抱えて生きていけるわけがない。そこでね、皆さんにお願いしたいのですが、生産拠点の移転や分散がしやすいように、固定資産税の減免などの税制上の優遇策を作るよう、県や国に呼びかけてもらえませんか」。

地域最大の企業の経営者による「地元退出」をにおわす発言に、首長たちは凍り付いたのだろう。スズキの相良工場がある牧之原市の西原茂樹市長は懇談後、興奮した面持ちで「移転を促す法的な整備に応じるわけにはいかない。地域の企業の声をもう一度聞いて、企業が残ってもらえるような対策を県や国に訴えたい」と話した。

翌日、鈴木氏に地元自治体との懇談の狙いを改めて聞いてみた。「まあ、企業経営者の危機感を理解してもらえればいいのではないでしょうか」。鈴木氏は穏やかな表情で、こう語った。

そして1週間後の23日。震災後100日が過ぎて、鈴木氏は決意を口にする。東京・新宿のホテルで開かれた業績見通しの会見の途中、質問を遮るようにして突如「皆さんに訴えたいことがある」と、工場再配置を検討していることを話し始めた。「東北の状況を見て、何もしない経営者はバカだといわれるでしょう」と話した時の眼光の鋭さは、震災前の血気盛んな鈴木氏に戻っていた。

鈴木氏は業績見通し会見で、静岡県内の拠点再配置を検討すると話した(23日、東京・新宿)

鈴木氏は業績見通し会見で、静岡県内の拠点再配置を検討すると話した(23日、東京・新宿)

ただ国内工場の再配置を本格的に進めるには数千億円の投資が必要だ。しかもスズキの主力は国内にしか市場がない軽自動車。インドなど海外に拠点を分散するには限界がある。国内も、地震のリスクを回避できる場所はほとんどない。「再配置の時期、場所は」と詰め寄る記者を「時間もカネもないから、今は今のままで頑張るしかない」と、再びけむに巻いて会場を後にした。

鈴木氏はなぜ、雲をつかむような構想を、このタイミングでぶち上げたのだろうか。恐らく鈴木氏は、被災地を無視して「政争」にうつつを抜かす政府などに、産業界を代表して警鐘を鳴らしたかったのだろう。鈴木氏の声に共感する企業が全国に広がれば、被災地復興を後押しできる。そうすれば被災地以外の企業の震災リスク軽減策の議論も加速する、と読んだのだろう。

鈴木氏は、したたかに勝機を探り、決断すれば一気に攻め込む攻撃的の経営者だ。震災という前代未聞の状況に一度は立ちすくんだが、これで終わるわけがない。それだけに、注目されるのが今後だ。静岡県に集中する生産拠点をいかに、低いコストで分散させていくのか。そこにこそ、経営者として真骨頂が現れるのではないか。何もしないことは将来のリスクを放置することで、鈴木修流に言えば、「経営者はバカだといわれる」ということになる。

鈴木氏の経営者としての歴史を振り返れば、常に周囲の意表を突く一手を打ってきたことの繰り返しだ。業界関係者の多くがリスクの大きさゆえに尻込みしたインド進出であり、「クジラとメダカの提携」と揶揄(やゆ)された米ゼネラル・モーターズ(GM)との提携もそうだった。もし、今回の震災対応を考えて、うまくリスク分散を図るには、国内での再編も視野に入ってくるのではないか。震災という「最大の危機」と向き合った81歳の経営者が最後の大勝負に打って出るのか。業界の誰もが目を離せなくなってきた。

(浜松支局長 大西穣)

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