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海上コンテナ・産業機械…ダイキンがインバーターで広げる裾野

エアコンでは当たり前のように使われる「インバーター」。エアコンの心臓部に当たるコンプレッサー(圧縮機)のモーターの回転を調整することで微妙な温度調節が可能になり、消費電力も抑えられる。空調大手のダイキン工業はこのインバーターの活用に余念がない。海上コンテナ用冷凍機ではインバーター搭載機を製品化し、産業機械向けの油圧機器でも戦略製品に活用する。主力の空調事業で培ったコア技術の横展開で周辺事業の競争力強化につなげようとしている。

「インバーターを搭載することで省エネを実現した海上コンテナ用冷凍機で、世界首位の米空調大手キヤリアに追いつき追い越したい」。昨年11月に発売したコンテナ冷凍機「ZESTIA(ゼスティア)」を開発した狙いをダイキンの鉄屋克浩低温事業本部営業部長はこう力説する。

ゼスティアは業界で初めてDC(直流)インバーター圧縮機を搭載した戦略製品だ。インバーターを搭載していない同社従来機と比べて消費電力を約45%低減できる。燃油高騰による輸送コストの増大や二酸化炭素(CO2)の排出規制強化という流れの中、輸送コストの低減につながる点をアピール。船会社や海外が中心のコンテナリース会社に売り込む。

インバーターは周波数変換装置とも呼ばれ、電圧や電流、周波数をコントロールする。エアコンのほか冷蔵庫や蛍光灯、電子レンジなどの家電や、電車、エレベーターなどにも使われる。

インバーターを搭載していないエアコンでは「設定した温度まで冷やす」「運転を止める」「また運転して冷やす」の繰り返しで、室温を調整していた。そのため、室温が安定せず、電力消費も多くなっていた。一方、インバーターエアコンは起動してから設定温度に近づくまではモーターを高速で回転させ、その後は低速回転に切り替えることで消費電力を抑える。

日本国内の家庭用エアコンはほぼすべてがインバーターエアコンだが、外気温がセ氏50度からマイナス30度という過酷な環境で使われるコンテナ冷凍機にインバーターを搭載するのは容易ではない。豊富なノウハウを持つダイキンですら開発に3年を要したという。米キヤリアに次いでコンテナ冷凍機の世界シェア2位のダイキンにとってゼスティアはキヤリア追撃の切る札ともいえる。

海上コンテナで運ばれる冷凍・冷蔵カーゴの輸送量は新興国での中間層の増大などを受けて増加傾向にあり、冷凍コンテナの需要も堅調な伸びが予想される。コンテナ冷凍機のほか低温倉庫用エアコンなどを扱うダイキンの低温事業本部では2011年度の売上高が前年度比17%増の約220億円だったが、13年度には400億円の売り上げを目指す。「低温事業はダイキンの将来を担う主軸事業の一つ。この分野でもグローバルナンバーワンの実現を目指したい」と古田真低温事業本部長は意気込みを語る。

 ダイキンはエアコンで培った技術を基にコンテナ冷凍機のほか冷凍・冷蔵倉庫用エアコンやチラーと呼ばれる大型空調システム用の熱源装置にもインバーター技術を活用している。ここまでは空調機器の範囲内だが、それだけではない。産業機械などで使われる油圧機器にもインバーター技術を応用しているのだ。

インバーターを搭載した高機能の油圧機器製品をダイキンが市場に本格投入したのが00年。工作機械からプレス機械、射出成型機など活用範囲を徐々に広げ、10年には建設機械用油圧機器にも採用した。潤滑油や油圧機器の作動油の温度を一定に保つオイルクーラーにもインバーターを活用。工作機械向けでは国内トップシェアを誇る。

ここでもインバーターによる省エネ効果が大きな武器になっており、自社の生産ラインに導入した際には電力を37%低減した。納入先ではプレス機械向けで90%の消費電力の削減につながった例もあり、「工場省エネが実現できる」をうたい文句に販売拡大を狙う。

油圧機器を手がける油機事業部は、11年度に約240億円だった売上高を13年度に300億円に引き上げる計画だ。現在、産業機械向け油圧機器分野で2位の国内シェアも「省エネ製品の投入で1位が視野に入るレベルまで上がってきた」(丸岡秀樹油機事業部長)という。

本業のエアコン事業には欠かせないインバーターというコア技術の横展開では着実に実績をあげているダイキンだが、過去には多角化事業で苦い経験を持つ。1995年には82年の事業開始から赤字続きだったロボット事業から撤退。前年に社長に就いた井上礼之会長が「経営資源の選択と集中」を目指すために決断したのだった。

その後も真空ポンプ、電子機器、医療機器など多角化事業の撤退は続いた。コア事業との関連性が薄かったり、コア技術の横展開が難しかったりした分野は果敢に整理する一方で、「コア事業の周辺にビジネスチャンスはある」と井上会長は強調。周辺事業拡充のための武器の一つがインバーターであり、今後もこの方針で事業の拡大に取り組む方針だ。

韓国や中国などの新興メーカーとの競争が激しくなる中、日本のものづくり企業はややもすると高い技術力を経営に生かし切れずにきた。だが、稼げなければ、優れた技術力も宝の持ち腐れに終わる。コア技術をいかに活用して事業を拡大するのか。ダイキンの取り組みは一つの道筋を示しているといえるだろう。

(大阪経済部 神谷浩司)

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