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施工時も完成後もエネルギー消費ゼロの「究極ビル」に挑む

二酸化炭素(CO2)の排出量を既存のオフィスビルよりも大幅に削減できる省エネルギー型建築が続々登場するなか、大手ゼネコン(総合建設会社)がエネルギーを自給自足し、正味のエネルギー消費をゼロにできる「ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)」の技術開発を急いでいる。さらにその先に、工事中のエネルギー消費もゼロにする目標も見据える。建設中も稼働後も「ゼロ」。そんな究極の低炭素社会型ビルの模索が始まった。

清水建設は日本初のZEB建設プロジェクトに着手した。山梨県北杜市で低層ビルの建設を宗教法人から受注し、3月16日に着工した。太陽光発電やバイオマス(生物資源)発電で電気を自らつくり出し、蓄電池にためた電気を無駄なく使うビルエネルギー管理システム(BEMS)も備える。自然通風、断熱性の高い窓ガラスの採用で省エネ性能を高める。エネルギーの創出と省エネ強化で「差し引きゼロ」を実現する。総工費は約50億円を見込む。

経済産業省は2009年、大学の研究者、建設、電機、電力など各業界の有識者を集めたZEBの研究会を通じて、新築建築物全体を30年までにZEB化するビジョンを盛り込んだ報告書をまとめた。このビジョンの実現を後押しするための補助金も予算化されている。清水建設が工事を手がける北杜市のビルの完成は約1年後。30年までのZEB化をめざすビジョンを先取りした格好だ。

ただ、今回のプロジェクトは郊外型の低層ビルだ。「森の中のオフィス」というコンセプトで、間伐材を活用するバイオマス発電などは都心のビルでは考えにくい。発電設備や太陽熱利用システムなどをフル装備するため、コスト高になっているのも事実。この先進事例をすぐに一般的な都市型のビルに適用できるわけではなさそうだ。

米コロラド州にある国立再生可能エネルギー研究所の研究支援施設など、世界の先進事例も郊外型オフィスビルだ。今後、都市型のビルも含めて全てをZEBにするビジョンを実現するためには、建築設備関連技術や設計手法の開発を一段と加速させる必要がある。

ところで、実はZEBの定義には諸説ある。例えば「ゼロエミッション(排出ゼロ)」のビルという解釈だ。大林組は10年秋に完成した技術研究所(東京都清瀬市)の本館「テクノステーション」で昨年、温暖化ガス排出枠を使ってビルが出すCO2を相殺するカーボンオフセットを実施。「エミッションZEBを実現した」(建築本部本部長室の小野島一部長)と説明する。省エネ技術で一般的なオフィスと比べてCO2排出量を55%抑制。残りの45%はカーボンオフセットによってゼロエミッションを達成したのだ。

同社は3月16日、野口忠彦副社長が記者会見し、ZEBを一歩進めた「ZEC」構想を発表した。ZECとは「ゼロ・エネルギー・コンストラクション」のことで、ビルなどの建設工事でのエネルギー使用量をゼロにする考え方だ。「ZEBの提供だけでなく、施工でもエネルギー消費を抑えて低炭素社会を実現する」としており、20年までの実現をめざしている。ZECとZEBを組み合わせれば、建設中も、工事完成後のビル運営でもエネルギー消費やCO2排出はゼロ。低炭素社会の要請に応えた次世代ビルの姿が浮かび上がる。

ただ、現実問題として、ものづくりをする工事現場のエネルギー消費を現場内だけでゼロにするのは不可能だ。大林組は京都府内にある自社の物流倉庫にメガソーラー(大規模太陽光発電所)を整備し、近く自ら発電事業に乗り出す。こうした「創エネ」と工事現場の省エネを組み合わせて、ZECを実現する考えだ。このため今後、メガソーラーに加え、風力発電や地熱発電など約20の創エネ関連プロジェクトを展開する方針だ。

ゼネコン各社は工事現場ならではの創エネ技術も磨いている。大成建設は高層ビルの解体工事現場で使うクレーンに発電機を組み込み、廃材を下ろす際の落下運動のエネルギーを利用して発電する技術を実用化した。東京・大手町の高層ビル解体工事に適用。クレーンだけでなく、工事現場の照明など必要なエネルギーの一部を賄うことができたという。

鹿島は工事現場の仮設事務所に太陽光発電パネルを設置して、事務所内の電力コストを抑制する「現場deソーラー」プロジェクトを推進中だ。13年までに約50カ所の工事現場で太陽光発電を導入し、全体で年間50トンのCO2削減をめざす。太陽光発電による発電量やそれに伴うCO2削減効果などをインターネットで公開している事務所もあり、現場の地道な創エネ活動についてアピールする。

3月26日には東京電力柏崎刈羽原子力発電所(新潟県柏崎市、刈羽村)の6号機が定期検査に入る。北海道電力泊原発(北海道泊村)の3号機が4月に停止すれば、国内で稼働する原発はゼロになる。電力不足懸念は深刻さを増すことになりそうだ。

20年近く先を見据えていたZEBの建設技術も電力供給不安が強まるなかで、次世代の技術とも言っていられなくなってきた。建設中も工事完成後もエネルギー消費ゼロという究極のビルの必要性も現実問題として浮上してきそうだ。

(産業部 山根昭)

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