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日本発の「超高純度鉄」 世界標準へ

編集委員 永田好生

日本生まれの「超高純度鉄」が世界の標準物質として活用される。開発者の安彦兼次・東北大学客員教授が日本とドイツの関連機関に登録を申請し、このほど認定を受けた。高温に強くさびないという優れた特性を持ちながら、量産が難しく高価なため応用はこれからだ。世界標準の認定が用途開拓の突破口になるだろうか。

超高純度鉄が登録されたデータベースは、製品評価技術基盤機構の「標準物質総合情報システム」と、独連邦材料試験研究所が主宰する「国際標準物質データベース」だ。米国立標準技術研究所も関心を示しており、世界で最も純度の高い鉄として世界で公式に認められそうだ。安彦客員教授は「このテーマに47年間取り組んだ集大成」と感慨深げだ。

超高純度鉄は、純度が99.9996%と市販されている高純度鉄よりも不純物の量がさらに100分の1と少ない。性質は一般の鉄とは全く違い、表面が銀色に輝きさびない。塩酸につけても溶けず、教科書で習う金属のイオン化傾向の常識が成立しない。柔らかいため、たたいて加工しやすいが、極めて割れにくく簡単に切断できない。

こうした特性を生かす用途を見つけようと、安彦客員教授は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や科学技術振興機構の支援を受けて応用開拓を目指してきた。NEDOの事業では産業界と協力して「超高純度金属材料技術研究組合」を設立。核燃料の被覆管など厳しい耐熱強度が求められる用途を想定し、長崎市内に100キログラム級の超高純度鉄を作れる試験炉を完成した。この2月には、米独の機関に送るため、純度99.999%で重量約80キログラムの試料を作った。

しかし現状では、産業界がすぐ飛びつく段階には至っていない。一番の壁はコストだろう。市販の高純度の鉄は1キログラム当たり100万~200万円する。超高純度鉄がそれを上回るのは確実。電力会社のほか素材や重工メーカーは採用に及び腰だ。

研究組合の活動期間は2010年度までで、このまま事業段階への移行は難しい。国際標準の認定は、産業応用に向けて"つなぎ"の役割を果たすと安彦客員教授らは考えている。

大学や企業が新たに開発する鉄系の材料の成分を分析する際、この超高純度鉄が基準になる。これまでの高純度鉄よりも精度の高い分析が可能になる。

データベースに登録されたことで、多くの研究者の目に留まるようになる。従来の鉄を上回る性質が広まれば、使おうとする研究者が現れる。すでにベルギーの研究者から「原子力発電の燃料棒用に最適ではないか」と問い合わせがあるようだ。

これほどの超高純度鉄を作れる拠点は、東北大金属材料研究所(仙台市)と長崎にある試験炉の2つだけ。かつて米マサチューセッツ工科大学や独マックスプランク研究所、仏サンテティエンヌ国立鉱山大学など名だたる金属研究グループが挑んだが、せいぜいグラム単位の高純度鉄ができた程度。80キログラムは驚異的といえる。

先進国で金属の基礎研究が廃れてきたとはいえ、標準物質に対する意識は欧米研究者の間で高い。その欧米の研究者から、世界標準の鉄を作る研究拠点として日本は先頭を走っていると認められている。安彦客員教授はこれを機に、これまでのノウハウを次の世代に引き継ぐ国際的な拠点を整備する構想を温めている。

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