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動き出すEUの航空機排出規制、日米には不利に

編集委員 中山淳史

欧州で気になる動きが出てきた。欧州連合(EU)は2012年1月1日から航空機を対象に含めた温暖化ガス排出規制を導入した。EU司法裁判所が昨年12月21日に、日米の航空業界などが「国際法違反」などと反発していた訴えを棄却し、合法との判断を下したのだ。

EU内を離着陸するすべての航空機に二酸化炭素(CO2)の削減が課せられる。削減できなければ、未達分を埋め合わせる排出枠を買わないといけなくなる。そうなれば、購入にかかるコストは航空会社が負担するか、あるいは利用者が運賃の一部として支払うことになりそうだ。

EU司法裁の判断を受け、米国や中国などは対応を批判する声明を発表。日本は前田武志・国土交通相や定期航空協会などが反対の意を表明した。司法裁は、規制について「欧州発着の航空機に限定したものであり、領空や主権の原則に違反するものではない」と主張している。領空主権を定めたシカゴ条約や航空自由化協定とは矛盾しないとの判断である。

だが、クリントン米国務長官などは、あくまでEU側に再考を求める姿勢を崩しておらず、外交問題に発展する可能性も高まっている。場合によっては、米国が対抗措置を講じる可能性もあり、日本にとってもやっかいな話になりそうだ。

実際に適用された場合、影響を受けるのはどこか。欧州委員会が排出削減を義務付ける約4000の航空会社を公表しているが、日本の航空会社で該当するのは日本航空、全日本空輸、日本郵船子会社の日本貨物航空(NCA、千葉県成田市)、新規航空会社のスターフライヤー(北九州市)の4社だ。

原則として4社は12年に04~06年(3年平均)比でCO2排出量を3%削減する必要がある。各社がそれぞれに削減計画を欧州委に提出。排出削減は12年からだが、さかのぼって10年から実際の排出量を計測しなければならないという。

実際の排出量が排出上限枠を超えた場合はどうなるだろう。その場合は、EUの排出量取引市場で排出枠を購入する必要があり、航空業界にとっては新たな負担増要因となる。ただし、移行のための措置や期間があるとみられ、全日空では「実際にコスト負担が生じる可能性があるのは、13年以降」とみている。

では、実際にどんな影響が事業に出そうか。事業者側がコストを負担するとなれば、航空会社は欧州を飛ぶ便を増やしにくくなる可能性がある。また、例えば日本からドイツのフランクフルトに飛ぶ場合、直行便にすると高くなるので、ロシア、トルコ、ノルウェーなどの非EU加盟国を経由して、排出規制を受ける距離をセーブする航空会社も現れる可能性はないだろうか。

いずれにしても、政府レベルや企業間で議論が高まるのは必至だ。オープンスカイ協定が一般化し、航空会社はそれを前提にネットワークを世界中に張り巡らしてきたが、この規制が適用されれば米国や日本の航空会社はEU行きや、EUからの以遠路線のすべてでコストが増加する可能性が出てくる。

しかし、EU内の航空会社は米国や日本行きに規制が適用されるものの、その先の以遠路線では適用外になる。これは明らかにEU側に有利に働き、競争条件を巡って利害の対立が激化するのは、火を見るより明らかだ。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によれば、温暖化ガス排出量の約13%は航空機を含む運輸部門が占めているという。なかでも航空機からのCO2排出量は増え続けており、これを何とか減らそうというEU側の狙いは正当性を持っている。

ただし、その背景に排出量取引を巡る思惑や、航空会社側の利害があるとしたら問題だ。いずれにしても、もう少し議論が必要な規制の動きと筆者には映るのだが、どうだろうか。

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