原発ビジネス、海外で再始動 今後の課題は人材育成 - 日本経済新聞
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原発ビジネス、海外で再始動 今後の課題は人材育成

原子力発電ビジネスが海外で再び動き出す。2月9日、米国で34年ぶりとなる原発新設が認可されたのに加え、リトアニアやヨルダンなど新興国でも日本企業が関連する新設計画が相次ぐ。日本の原発プラントメーカーなどは昨年3月の東京電力福島第1原発事故で停滞していた海外ビジネスの再始動に期待を寄せるが、中長期的には人材育成という難題を抱えている。

「原発は二酸化炭素(CO2)削減の観点から必要不可欠なエネルギーで、各国で継続した需要が予想される」。東芝は10日、米国で原発新設が認可されたのを受けて「脱・炭素社会」における原発の重要性を改めて強調するコメントを発表した。

米原子力規制委員会(NRC)は東芝傘下の米ウエスチングハウス(WH)の新型軽水炉「AP1000」を採用したボーグル原発(ジョージア州)3、4号機の建設・運転計画を承認した。2016~17年にも稼働する。米国では1979年のスリーマイル島事故後は新設はなく、新設認可は78年1月以来となる。

104基が稼働する「原発大国」の米国が新設に動き出すのは、福島事故で国内での新設が当面難しい日本企業には朗報だ。米国では現在、電力事業者がNRCに28基の建設運転一括許可を申請している。原発の建設許可と運転認可を一度に取得するものだ。28基の半分の14基はWH製「AP1000」で、東芝は同炉で使うタービンなど中核機器を供給する。三菱重工業も米国で最新の加圧水型軽水炉(PWR)「US-APWR」を3基受注している。

「日本の高い原子力技術に期待する」。20日、来日していたリトアニアのクビリウス首相は野田佳彦首相との会談でこう要請した。リトアニア政府が同国北部で20年の稼働をめざすビサギナス原発のプラント建設で、優先交渉権を獲得しているのが日立製作所だ。

日立にとっては、交渉がまとまれば海外初の原発受注となる。原子力事業で提携する米ゼネラル・エレクトリック(GE)と同政府に提案したのは、改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)と呼ぶ新型炉。炉心冷却用の代替電源を確保し、冷却機能も強化している。日立・GE連合はリトアニアに続き、東南アジアなど新興国での受注活動を進めている。

三菱重工は原子力世界最大手の仏アレバと組み、ヨルダンでロシアとカナダの原子力企業を相手に受注競争の真っ最中にある。三菱重工とアレバは出力170キロワット級の大型炉では競合関係にあるが、新興国では100キロワット級の中型炉の需要が急増するとみて97年に合弁会社アトメア社(本社パリ)を設立。安全技術などを持ち寄った中型原子炉「アトメア1」(110万キロワット)を共同開発した。

2月上旬には同炉について、仏原子力安全規制当局(ASN)から安全基準に適合しているとの評価結果を受け取った。「世界的にも厳しい安全基準を要求する同局からの評価獲得でアトメア1を世界に売り込める」(三菱重工)という。

日本企業が待望していた海外原発ビジネスは再始動したが、中長期的には原発技術者の育成・確保で同事故の影響が出てくる懸念がある。

「福島事故があっても人材育成の重要性は変わらない」「今こそ産官学が連携した教育網の構築が必要だ」

昨年12月20日、電力会社や原子力関連メーカー・団体、行政、大学などが参加する「原子力人材育成ネットワーク」の活動報告会が東京都内で開かれ、危機感を漂わせた発言が相次いだ。同ネットワークができたのは10年11月。エネルギー確保や地球温暖化対策の観点から原発を再評価する「原発ルネサンス」の動きを受け、今後、世界規模で原発技術者が不足するとみて、人材育成の体制強化を目的に国主導で設立された。

日本企業が関連する主な海外原発ビジネス
国・地域主な受注活動
東芝=米ウエスチングハウス(WH)連合
米国34年ぶり新規建設認可の原発に東芝傘下の米WHの新型炉「AP1000」採用
東芝の改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)2基受注(建設時期は未定)
中国「AP1000」4基が建設中
ベトナム日立製作所、三菱重工業などとの日本連合で2020年稼働予定の2基分を受注
トルコ東芝が受注活動。韓国メーカーなどと競合
フィンランド東芝が受注活動。仏アレバと競合
チェコWHが受注活動。仏アレバなどと競合
ブラジル東芝・WH連合で受注活動へ準備開始
日立製作所=米ゼネラル・エレクトリック(GE)連合
リトアニアGEと組み優先交渉権を獲得。日立としては海外初の受注となる見通し
東南アジアベトナムなどで受注活動強化。11年からベトナムの大学で技術者育成開始
ポーランドGEと組み受注活動。仏アレバなどと競合見通し
カナダGEなどと組み小型原子炉の共同開発を計画
三菱重工業
ヨルダン仏アレバと組み受注活動。ロシア、カナダの企業と競合。3月中にも決定
米国テキサスとバージニアの原発運営電力会社から計3基を受注
トルコ受注活動参画を検討。韓国メーカーなどと競合
ベトナム東芝、日立などとの日本連合で2基分受注

活動報告会のテーマは「福島事故後の人材育成」。同ネットワーク運営委員長の服部拓也・日本原子力産業協会(JAIF)理事長は「原子力の安全は人に大きく依存している」と述べ、全世界で原発の拡大基調が続くなかで人材の育成・確保の必要性を強調した。

原子力技術者は国内外で不足している。第2次世界大戦後、新たな科学として原子力工学を学ぶ学生が増えたが、80年代に入ると情報技術(IT)産業などに人材が流出。86年のチェルノブイリ原発事故後は「脱・原発」の動きが米欧で加速し、日本の大学でも学科閉鎖が相次いだ。文部科学省によると、84年度には日本の原子力関係学科(学部と大学院)がある大学は21校あったが、04年度には5校に激減した。

原発ルネサンスを受け、ここ数年は日本の原子力関係学科の入学定員数は増加傾向にある。原子力関係学科がある大学は11年度には10校に回復。同年度の入学定員数(博士・修士課程と学部の合計)は300人を超え、04年度に比べ約2倍に増えた。JAIFによると、東芝や三菱重工など原子力関連メーカー6社に就職した原子力専攻の学生数は10年度に約230人で、07年度に比べ約8割増えた。

原子力を学ぶ若者が増えてきた矢先に起きた福島事故。教育現場では「大学で原子力専攻の学生が他分野へのくら替えを相談する例が出てきた」(都内の大学関係者)との声が出ている。同事故が収束するまでには、数十年間にわたる放射性物質の除染や廃炉作業などが必要で、若手技術者の育成は不可欠だ。だが、廃炉作業など事故収束が仕事の中心になるとすれば、「優秀な学生が原子力工学に夢を持てるか不安だ」とある原発プラントメーカー幹部は打ち明ける。将来の技術者の卵である小中高生らについても同じことが言える。

国やメーカーなどは当然、福島事故前に描いた原子力の将来像について安全性を徹底的に検証し、導入計画などを再考しなければならない。一方、国の成長戦略として原発インフラの輸出強化を続けるのならば、技術者育成を重視したロードマップも早く描く必要がある。世界の原発新設見通しは福島事故で下方修正されたものの、30年までに130~370基(100万キロワット級の中型炉換算)増えるとの試算がある。大部分は新興国で、日本勢の技術力をもってすれば市場開拓の余地は大きい。そのためにも技術者が育つ環境の整備が急務だ。

(産業部 松井健)

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