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ワクチン産業育成へ日本版ACIPの創設を

有効性・安全性を評価

編集委員 矢野寿彦

予防医療の推進や感染症対策の上で、ワクチンが欠かせなくなってきた。この10数年、欧米の先進国に比べて予防接種に慎重姿勢だった日本だが、昨年の新型インフルエンザ発生を契機に、ワクチン産業を本気で育成しようとする機運が高まっている。武田薬品工業など大手製薬会社も参入する方針だ。

ただ、ワクチンは薬と違い健康な人に打つ。深刻な副作用が起きるとこれまでも社会問題になり、企業にとっては経営リスクが大きい。生物製剤と呼ぶ管理に手間のかかる「生もの」であるうえ、需要は病気の流行に左右される。ワクチン産業をきちんと根付かせるには、米国にあるような予防接種諮問委員会(ACIP)が必要だ。

日本がワクチンを「軽視」するきっかけになったのは、今から18年前、1992年の東京高裁判決といわれる。種痘やポリオなどの予防接種で死亡したり、重い後遺症が出たりした被害者や家族らが、国を相手取って集団訴訟、被告の国側が全面敗訴したからだ。

2年後の94年には予防接種法が大幅に改正され、学校での集団接種も取りやめになった。予防接種は「義務」から「努力義務」に切り替わり、産業としてみると、市場は縮小していった。

ワクチンでは、薬の副作用にあたる言葉を正しくは「副反応」と呼ぶ。人間の体に備わった免疫力を利用して細菌やウイルスの感染を防いだり、発症を予防したりするのがワクチンだからで、接種後の予期せぬ体内反応(副反応)からどうしても逃れられない。作製技術や品質管理が進歩したとはいえ、接種対象者数が多くなると、副反応が「ゼロ」というわけにはいかない。

新型インフルエンザや口蹄疫(こうていえき)騒動で社会のワクチンへの抵抗感は薄らぎ、追い風が吹いている。ただ、ひとたび予防接種による犠牲者が出ると、風向きが変わることもある。

ACIPは米政府から指名された産官学の専門家らがワクチンの有効性や安全性などを評価する常設機関だ。メンバーにはワクチン接種に慎重な意見を持つ人もいる。国民を巻き込んで、ワクチンについて話し合い、感染症を減らすために、どれをどの年齢で接種するかなどを決める。権限は強く、政府への勧告はそのまま政策に反映される。

厚生労働省も日本版ACIP導入を検討している。16日には厚生科学審議会予防接種部会でACIPに詳しい専門家を招き、議論を始めた。

国立病院機構三重病院の神谷齊名誉院長によると、予防接種には自分の健康を守るほかに次世代の健康や社会を守るという役割もあるという。

日本版ACIPを創設し、まず、ワクチンや予防接種に対する、こうした共通認識をもつ作業から始めることが必要だ。本質的な議論をさけたまま、前のめりになって産業推進だけをうたうと、手痛いしっぺ返しをくうだろう。

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