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幻に終わるか、「第2東電」構想

電力会社から買う電気はみんな同じ。利用者は電源を選べない――。そんな"原則"が覆るかもしれない。東京電力とソニーとの間で、二酸化炭素(CO2)ゼロの電気だけをやり取りする計画が実現寸前まで進んだ。実質的に、環境性の高い電気を特定の需要家のみに販売する、「第2東電」を作るような計画。東電内部にも反対論は根強かったものの、実現に向けた原動力になったのは、2000年から始まった電力自由化がもたらした競争だった。

「第2東電」構想の動きが表面化したのは昨年9月29日。ソニーとバイオマス発電所を持つファーストエスコによる発表だった。東電が60%、ソニーが40%を出資してつくる新会社「サステナブルグリーンパワー」に、ファーストエスコが持つ福島県白河市内の出力1万1500キロワットの発電所の発電事業を譲渡する覚書を結んだ。譲渡価額は9億円。バイオマス発電で作った電気を、東京・港のソニー本社まで送電して使う計画だった。

電力会社が特定の需要家のために子会社を作り、CO2排出ゼロの電力を売る。他に類を見ない電力サービス構想のきっかけは1年前にさかのぼる。

慎重な社風で知られる電力会社にルビコンを渡らせた仕掛け人は、かつてソニーでエネルギーソリューション室長を務めていた桑原康浩氏だ。2000年にソニーと東電が協力して、「グリーン電力証書」の仕組みを作ったときのソニー側の当事者だった人物だ。自然エネルギーで作った電気の量を正確に測って証書化し、その証書を企業などが購入すると、自然エネルギーで作った電気を使ったとみなす仕組みだ。現在も、東電グループの日本自然エネルギーが流通する証書の多くを供給しており、ソニーは最大の買い手でありつづけている。

ただ、証書はあくまで「みなし」であり、実際にその時に自然エネルギーで作られた電気を使っているわけではない。証書の仕組みを作った2000年以前に、桑原氏は東電など5電力会社に自然エネルギーの電気だけを供給する契約を作って欲しいと持ちかけたが、この時は、あえなく断られていた。「それ以来、証書ではなく、いつかはグリーン電力の直接購入をやりたいと思っていた」(桑原氏)。

在職中はチャンスに恵まれなかったものの、ソニーを退職し、環境・エネルギー分野のコンサルタントとして活動している桑原氏の元に、経営不安が高まっていたファーストエスコが福島県白河市のバイオマス発電所の売却を検討しているとの情報が伝わる。桑原氏は早速、古巣のソニーに発電所の買収を持ちかけた。発電所からソニーの拠点まで、100%クリーンな電気だけを送電する会社として、自らが代表取締役を務める新規電力会社「グリーンESCO」を作り、受け皿も整えた。

「第2東電」構想を巡る主な動き
2000年以前ソニー、東電など5社に「グリーン電力契約」求めるも電力側拒否
2000年11月1日東電グループの「グリーン電力証書」発行会社、日本自然エネルギーが設立
2006年10月Fエスコ、福島県白河市でバイオマス発電所の運転開始
2009年秋元ソニーの桑原康浩氏、ソニー・東電にFエスコの発電所買収を働き掛け。グリーンESCOを設立
2010年9月29日ソニー、東電が60%出資する発電所運営会社設立を発表。
Fエスコ、東電と白河市の発電所の事業譲渡で覚書締結と発表
2010年10月8日東電・ソニー、合弁会社「サステナブルグリーンパワー」を設立
2010年12月1日Fエスコ、事業譲渡の遅延を発表
2011年1月1日Fエスコ、事業譲渡の中止を発表
2011年2月10日Fエスコ、白河市の発電所運営会社株式を日本テクノに譲渡と発表
2011年3月下旬
(予定)
白河市の発電所運営会社株式、日
本テクノに譲渡完了

もっとも、ソニーにはバイオマス発電所を安定的に運転するノウハウがない。そこで、桑原氏がパートナーに指名したのが、証書の仕組み作りで協力した実績がある東電だった。事業開発部(現・新事業開発部)を窓口に、2009年秋ごろ、「環境負荷の低い電力を取り扱う、先進的なモデルを作ろう」と持ちかけた。

東電社内の調整は難航した。とくに自由化後、新規電力を相手に大型ビルなどの需要の取り合いを最前線で担う営業部から異論が噴出する。子会社が作る電気とはいっても、ソニー本社という大口顧客が現在の東電との契約を解除して、ライバルとしている新規電力からの購入に移ってしまうことに反発は強かった。

結論が出せないままの膠着状態が続くなか、計画実行へと背中を押したのは清水正孝社長だ。赤字にならないなどの前提を設けることで、経営トップ自らがゴーサインを出した。特定の顧客に直接、特定の電源の電気を供給するのではなく、発電所の運営会社に出資するスキームであれば問題ないと判断。もし、東電がやらなくても、ソニーは別の新規電力事業者と同じことを目指すに違いない――。大口顧客に対する競争がすっかり定着したことで、顧客が求めるサービスに対応しなければ需要が奪われてしまうとの考えが働いた。

09年から10年にかけて、バイオマス燃料の量が逼迫(ひっぱく)し、単価が上昇。発電所を運営するファーストエスコの経営状態は悪化していた。10年6月期決算ではバイオマス発電子会社の財務制限条項への抵触で、継続企業の前提に疑義があるとの開示を余儀なくされる。一刻も早く赤字を垂れ流す発電所は手放さなくてはならず、借入金17億円に対し、9億円の事業売却となる東電・ソニーの提案にも乗らざるを得なかった。

ただ、結果的には、東電社内での1年近い時間の空費が、実現への障害になってしまった。覚書を結んだ昨年9月の時点で、バイオマス資源を巡る市況はそれまでとは大きく変化した。紙やセメントの消費低迷で、バイオマス燃料を奪い合ってきた製紙やセメント工場の稼働率が低下。需要減により燃料コストが下がったため、白河市の発電所の4半期ベースでの事業利益は黒字になるところまで回復した。「CO2ゼロの電気を欲しいとする企業はほかにも多くいる」(島崎知格社長)。ファーストエスコ側に低条件で事業売却するインセンティブは薄くなり、覚書を結んだものの、その後の交渉は暗礁に乗り上げてしまう。結局、交渉は期間中にまとまらず、譲渡は中止になる。ファーストエスコはその後、東電・ソニーよりも良い条件を提示した、日本テクノ(東京・新宿)に発電所子会社を売却すると発表。「第2東電」構想はとりあえず幻となった。

それでも、今回の東電・ソニーの動きが電力業界に与えたインパクトは大きかった。電力自由化後に価格競争は進んだが、電源の選別につながりかねない「電力の質」に応えるサービスは皆無だったからだ。企業規模には大差があるものの、ライバル企業が存在することで、自由化前夜にはねつけていた需要家の要望に対し、いまや最大手の東電であっても、応えざるを得ないのだ。

1年前には出光興産が作る新規電力事業者、プレミアムグリーンパワー(東京・千代田)が三菱地所が運営する「新丸の内ビルディング」に、風力や水力など自然エネルギーを主体とする電力の供給を始めている。気候変動問題への意識が定着し、東京都や埼玉県などの自治体が温暖化ガス削減に向けた規制を導入する中、自然エネルギーで作る環境負荷の低い電気の価値は高まっている。たとえ、割高であっても供給を希望する需要は存在するのだ。

政府の自然エネルギー政策の混乱もあり、国内の風力やバイオマスなどの発電所を運営する企業のなかには、厳しい経営を強いられているケースも多い。確実に「CO2ゼロ電力」の需要はありながら、供給側とのミスマッチが続いている。両者をつなぐ役割を期待されていた日本卸電力取引所に設けられたグリーン電力の取引市場は、開設された2008年11月以来、取引実績ゼロが続いている。

環境配慮を強く求める海外の消費者・投資家などの意向を意識するソニーはクリーンな電源からの直接の電力購入をあきらめたわけではない。東電とソニーが共同で出資した発電所運営会社、サステナブルグリーンパワーは存続しており、案件さえあれば「第2東電」構想が再浮上する可能性もある。需要家による電源選択というパンドラの箱は完全に開くのか。環境意識の変化と自由化の浸透により、従来型の電力供給のあり方も変化を促されている。

(産業部 宇野沢晋一郎)

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