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誰かの思いを皆で増幅

柳沢大輔・カヤック社長

前回は起業時のことを書いたが、そこでは事業についてまったく触れなかった。「何をするかより誰とするか」というキーワードで会社をスタートした僕らは、本当にやることが決まっていなかった。

最初の3カ月は先輩の広告制作会社からサイト開発やウェブプロモーションの企画書作成の仕事をもらった。その3カ月で書いた企画書の数は3人合わせると100以上。この仕事がもらえたのは、僕らがたまたま慶応義塾大学環境情報学部(SFC)の3期生だったからだ。SFCにはインターネットの父と呼ばれた村井純教授がいたり、当時では珍しいホームページを作成する授業など、ウェブを学ぶ最先端の環境があった。

しかし今だから言える話だが、実際のところは、技術責任者の貝畑政徳こそ技術に詳しかったが、僕は卒業後2年間はレコード会社でインターネットとは関係のない仕事をしていたので、会社を立ち上げた後に知識を習得した。もう1人の創業メンバー、受託事業責任者の久場智喜に至っては、卒業してアメリカを2年ほど放浪、帰国後パソコンのスイッチが分からずに出先にいた僕に電話してきたほどだった。

そんな感じでスタートしたカヤックも企画書作成から徐々にサイト制作の仕事の依頼を受けるようになり、1年が経って最初の営業ツールとなる渾身(こんしん)の面白法人カヤックのサイトを立ち上げた。なぜ渾身かというと、同業他社すなわちサイト制作を事業とする会社を徹底的に研究し、どこよりも情報量の多いサイトにしたからだ。

 僕たちのポリシー、顔、仕事のフローをどこまでも丁寧に公開した。具体的なサイト事例とその見積もりまでもオープンにした。そして、このサイトがきっかけとなって依頼が舞い込みはじめ、今も1つの柱となっている受託制作の事業がスタートする。

当時の日本では検索エンジンの概念は普及していなかった。それでも「情報はできるだけオープンにし、とにかく多く発信したところに、チャンスは生まれる」。これは今でも変わらないインターネットの鉄則だ。そして自分たちがどういう人間か、どういう会社かを公開するというスタンスは今も変わっていない。

この受託制作は1年目から軌道に乗り始め、最初は売り上げが上がること自体が楽しくエキサイティングだったが、依頼されたものではなく自分たちがつくりたいものがたくさん出てきた。そこで1年目の終わりの7月7日に7つの独自サービスを同時リリースした。これは今でも続く7月7日に7つのサービスをリリースするという文化につながっている。

最初につくったサービスの1つは「思い込み倶楽部」と言う。これは、誰かの「思い」をみんなで協力して増幅しようというサービスだ。仕組みはこうだ。誰かが自分の思いを投稿する。「明日席替えなので、みよちゃんの隣になれますように……」といったように。そうするとその「思い」が登録する思い込み倶楽部員たちにメールで一斉に届く。その「思い」に共感し応援してやろうと思ったら、思いを込めながらそのメールに書かれたURLをクリックする。思い込み倶楽部部員たちの思いは集計されて、投稿者に届く。直接の収益にはつながらないが、話題になり、顧客からの評価が高まった。

インターネットの世界ではそんな非科学的なことを科学的な技術力を使えばサービスにできる。もっとつくりたいものがあり、その先ワクワクすることだらけだった。

[日経産業新聞2012年6月25日付]

 この連載は変革期を迎えたデジタル社会の今を知るためのキーパーソンによる寄稿です。ツイッター日本法人代表の近藤正晃ジェームス氏、東芝・研究開発センター所長の斉藤史郎氏、カヤック社長の柳沢大輔氏、トヨタ自動車常務役員の友山茂樹氏らが持ち回りで執筆します。
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