2019年4月24日(水)

金型の革命児は再生できるか

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2010/6/29 7:00
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IT(情報技術)を駆使、携帯電話機の精密金型を高速製造して金型産業の革命児といわれながら2009年2月に負債総額約147億円で経営破綻したインクス(東京・中央)。金融危機後の世界的な不況による需要減の直撃を受けたモノ作りベンチャーの挫折を象徴した倒産だったが、インクスが提起した生産工程革命の手法は今、日本以外で注目を集めている。

モノ作り革命の夢は未完に終わった。インクス創業者の山田眞次郎氏

モノ作り革命の夢は未完に終わった。インクス創業者の山田眞次郎氏

インクスは1990年、三井金属で米クライスラー車のドアロックを設計していた山田眞次郎氏が部下ら6人と設立した。米国で光造形技術を知った山田氏が「技能工は必要ない。早く導入しないと日本は米国に負ける」と衝撃を受けたのがきっかけだった。

光造形技術とは3次元CAD(コンピューターによる設計)の設計データに従い、レーザー光が樹脂に照射されると複雑な立体モデルが短時間で浮かび上がるもの。山田氏は光造形による試作事業を開始し、顧客の3次元CADデータから簡単に金型設計ができるソフトを自社開発したのをきっかけに業績を伸ばした。熟練工の匠(たくみ)の技をデータベース化するなど日本のモノ作りの強さをITで実現して金型産業の革命児と呼ばれ、サクセスストーリーをひた走った。

インクスの栄光と挫折
1990年設立。光造形試作事業開始
1993年光造形システム販売開始。かながわサイエンスパークに本社開設
1996年高速金型試作の研究開始。ニュービジネス大賞特別賞受賞
1998年3次元高速金型ツール販売開始。東京オペラシティーに本社機能移転
東京・大田に高速金型センター開設
2001年高速金型センター第2工場開設
2003年野村プリンシパルファイナンスと合弁で「日本ものづくりキャピタル」設立
2005年「ものづくり日本大賞」経済産業大臣賞受賞
2006年長野県茅野市に高速金型センター第3工場(零工場)開設
2007年本社を新丸の内ビルディングに移転
2009年民事再生法適用申請(同年10月認可)、本社を東京・中央の日本橋に移転

設計、試作、金型製造といった生産工程に3次元CAD、独自開発の高速加工機械を導入して設計・製造の自動化を一気に実現。製品開発期間を10分の1へと劇的に速くする。「インクス流」と呼ばれた生産工程革命を導入すればアジアの新興企業とのコスト競争に勝てると飛びついた自動車・同部品、精密機械メーカーがこぞって導入。特に製品ライフサイクルが短い携帯電話機の試作金型では世界シェア1位の座を獲得、IT製造ベンチャーの雄としてその名は国内外にとどろいた。

良くも悪くも「自社の技術が世界一である」ことを目指す山田氏のあくなき成長戦略が同社の飛躍と没落をもたらした。破綻の要因は需要減だけでない。積極的な技術者スカウトによる人件費の急増や、強気な投資による金融債務で破綻数年前から経営は危険ゾーンに突入していた。特に売上高の半分に近い約50億円をかけ06年に完成した長野県茅野市の新工場投資や3年前に本社を都心の一等地、新丸の内ビルディングに移転したことに伴う約13億円といわれる家賃負担は経営の重荷となった。

株式公開を否定、金融機関との太いパイプを作らない独立経営だったが、成長を前提とした積極経営はシナリオにほころびが生じるともろかった。資金繰りに狂いが生じると経営危機は猛スピードで襲いかかってきた。特に自動車向けが6割を占めただけに金融危機後、国内メーカーの大幅減産によるコンサルタントなどの受注ダウンは致命傷となった。07年12月期に約104億円あった売上高は08年12月期に約75億円に急落、19億円の営業損失を計上した。

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