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人間も「発電所」に 熱や振動が電気になる時代迫る

あきれるほど早く電池残量がなくなるスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)。手で握っているだけで発電し、充電できたらどれだけ便利だろうか。それはまだ夢物語だが、小さな電子部品ならもう体温で動かせる。身近な熱や振動を電気に変える時代が、すぐそこに近づいてきた。

かつて「人間発電所」と呼ばれた怪力のプロレスラー、ブルーノ・サンマルチノが活躍した時代があった。まだまだ力強さはないが、今度は実際に、人間の体温などを使った「発電所」が実際に使われる時代が迫っている。

身の回りにあふれる熱や振動、光、電波からエネルギーを「収穫」し、電気に変えるのが「エネルギーハーベスティング(環境発電)」と呼ばれる技術。最近、各社の開発が加速してきたが、その「発電燃料」の中には、体温も含まれる。

マネキンの手に巻かれた奇妙なリストバンド。ヤマハが開発した「体温発電」の試作品だ。オレンジ色の帯状の部分が熱を電気に変える熱電素子を使った発電モジュール。ここでつくった電気でセンサーを駆動させ、体温や湿度などを測定。採取したデータを無線で送る。

「体温をセ氏36度とすると、20~30秒に1回の頻度で測定データを無線で送るだけの電力は賄えます」。研究開発センターの堀尾裕磨・副センター長は説明する。

どんな製品に応用できるのか。堀尾氏が一例として挙げたのは美容分野だ。肌の状態と湿度は密接な関係がある。乾燥は肌の大敵だ。湿度を定期的にモニターし、湿度が一定以下になれば保湿などのスキンケアをするよう注意喚起できる。

熱源は体温に限らない。工場の設備や配管、自動車のエンジン回りや排気管など、熱が発生するところならどこにでも取り付け可能だ。

楽器やオーディオ機器で知られるヤマハだが、半導体や電子部品も手掛けており、温度制御に必要な熱電変換材料も内製する。素材から部品、完成品まで1社でできる技術の総合力が強みだ。「熱電素子はすぐにでも量産できる。ユーザーの使い方に合わせ、必要な部品を組み付けた最適なモジュールを提供できる。いつでも走り出せる状態だ」(堀尾氏)

「環境発電」の有望市場とされているのがセンサーの電源だ。わずかな電力で駆動できるからだけではない。電子機器を動かすのに発電所の電力を使うには配線が必要で、電池を使う場合も切れたら交換が必要だ。その作業は人がすることになる。だが、電気を自給自足する環境発電なら、配線と電池交換の手間から解放されるのだ。

 人の手が届きにくいほどその恩恵は大きい。例えば橋梁の揺れやゆがみを監視するセンサー。高所に取り付けられた無数のセンサーの電池交換にかかる手間とコストは膨大で、何より危険だ。自動車はIT(情報技術)武装が進み、内部はすでにワイヤハーネスの過密状態。センサーのために配線すれば複雑さは増す。

センサーというと地味に思えるが、実はインターネットの新たな可能性を開くキーデバイスでもある。センサーを取り付けた産業設備や社会インフラをネットワークで結び、機器間でデータ交換することで高度な制御を実現する「M2M(マシン・ツー・マシン)」がそれだ。

前述した橋梁の揺れなどの監視はM2Mの一例。センサーから発信されるデータが異常値を示せば、事故が起きる前に補強などの対策が打てる。高度経済成長を支えた日本の社会インフラは老朽化が著しい。人が巡回して点検するには限界がある。センサーが人の代役を果たす。

「環境発電の2020年時点の世界市場規模はデバイスだけで数千億円。センサーデータを活用したソリューション全体では数十兆円になるだろう」。50社以上の企業でつくる「エネルギーハーベスティングコンソーシアム」(EHC)の事務局を務めるNTTデータ経営研究所の竹内敬治シニアスペシャリストは予測する。

いいことずくめに思える環境発電。しかし、市場はまだ本格的に立ち上がっていない。普及に向けた課題がまだ残っている。

大きな要因は供給側にも需要家にも費用対効果が見えにくいこと。ヤマハは熱電素子の価格を明らかにしていないが、数百円で買える電池に比べればはるかに高額だ。「最大のライバルはボタン電池」(堀尾氏)。価格が高くても選んでもらうには、効果をはっきりと実感できる用途開発がカギを握る。それは部品・素材メーカーだけでなく、情報システム会社の役割でもある。

発電能力のさらなる向上も必要だ。富士通研究所は熱と光のどちらでも発電できる「ハイブリッド型」の発電素子を開発した。十分な光があるときは光で、光が不足する一方で熱が取れる状況では熱で発電できる。エネルギー源を増やして発電能力を高める狙いで、2015年ごろの実用化を目指す。

体温でスマホを充電できる日も来るのか。ヤマハの堀尾氏は「端末メーカーからも問い合わせがあるが、スマホを駆動させるのは難しい」とみる。残念だ。

(産業部 鈴木壮太郎)

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