スピーカーによみがえる糸芯材 デザイナーの知恵、中小が形に
デザイナー集団と東京の中小企業グループが手を組み、生産工程から出る廃材で様々な製品を開発した。ケーブルを巻き取る羊の形をしたウレタン製のホルダーや糸巻きスピーカー、自転車のフレームを保護するメリヤスのパッド、携帯用のスチール製臭い落としなどその数は18。製品を保護する緩衝材や伸び縮みするリブニット、金属のプレス加工で出る抜き打ち板から8人のデザイナーがアイデアを出し、中小企業が形にした。

5月下旬から廃素材の有効利用を提案するデザイナー集団「REady-Made(レディメイド)委員会」(代表・小林浩一氏)のメンバーが、リブニット製造の小高莫大小(めりやす)工業(江東)と岩井金属金型製作所(東京・墨田)、緩衝材製造のサトウ化成(同)の工場を訪れ、廃材を物色した。
「これはどのくらい量がでるのか」「季節によってけっこう差が大きい」「色の種類は?」
廃材は量が不安定だったり、形が一定でなかったりすることが多い。商品化を考えると原料の安定は重要だ。デザイナーたちはいくつも質問を投げながら、それぞれ廃材を持ち帰った。

それから約1カ月。関係者が集まりデザイナーがいくつも提案した。建築系や工業製品系など得意分野は様々で「アイデアがかぶったものは無かった」という。
リブニットからは布のほか、糸巻きの芯が出る。芯をフラワースタンドにしたり、イヤホンを挿してスピーカーにしたり。ニットは文庫本やアイパッドのカバーに生まれ変わった。

金属の廃材はプレス加工で打ち抜いた後に出る丸い板。臭い落としは角をとり表面加工した。丸い板を何枚も重ねて飲み物を冷やすスチールアイスや、曲げて箸置きやアロマキャンドルホルダーにもなった。
共同作業で試作品の改良を続けた。スチールアイスは「重さやコップの大きさを考えて、より小さい丸い板に変えた」という。溶接は外注し、キャンドルホルダーや小皿では岩井金属が「新たに金型を作った」。羊のホルダーは細い部分の幅を調整した。


こうして2カ月強で製品群ができあがる。8月半ばから半月、東京スカイツリーの商業施設、東京ソラマチで展示した。フェイスブックで人気投票を募ったところ、ケーブルを羊の毛にみたてた羊のケーブルホルダーが1位、糸巻きスピーカーが2位になった。
廃材を提供した3社は墨田区などの中小企業が2年前に設立した「配財プロジェクト」(墨田区、代表理事・三田大介氏)の加盟企業。小高莫大小を訪ねた配財プロの現理事の1人が糸巻きの芯が万華鏡の筒になると思いついたことをきっかけに、知り合いの万華鏡作家の協力を得て「廃棄物を価値ある配財にしよう」と墨田区中心に若手経営者ら10人弱でスタートした組織だ。

昨年5月には墨田区でナットやボタンなど様々な廃材を1袋100円で販売、万華鏡製作体験のイベントを開いた。そこを訪れたのが手芸作家の大須賀和美氏。彼女はかねて廃材で様々な作品を製作。「いい廃材」を探していた。イベントで購入した廃材を使った壁掛けを持参、プロジェクトに参加を希望する。
そのころ、メンバーは万華鏡の次に何を作るかで壁に突き当たっていた。製造業が多く「どうしても工業製品を作ろうとする。しかし廃材は形も品質も量も不安定だから仕様が決まった製品を作りにくい」からだ。

大須賀氏はそうしたこだわりがなく、風船とスポンジでマスコットや、金属の廃材を組み合わせてミニチュアの家など、どんどん創作していく。いつしか大須賀氏はメンバーから「配財アーティスト」と呼ばれるようになる。今は配財プロの理事だ。配財アーティストの登場で子どもがものづくり体験するアイテムは増えた。万華鏡は販売も始めた。
一方、レディメイド委員会は資源の無駄遣いをやめようと、廃棄された樹脂製のイスの再生を機に2006年に発足した組織だ。発足時のイスのほか廃車の素材、ふとんの綿などを再生して様々な商品を提案、年に1回展示会などに出展してきた。
そんな両者が出会ったのが今年の初め。配財プロにとってはデザイナーとつながったことで、廃材をより広範囲に商品にする体制ができた。

レディメイドにとってもメリットは少なくない。これまでリサイクル工場などの廃棄物置場などから廃材を調達してきた。このため商品にした場合、元がゴミというイメージのため「これきれいなの?という反応が時々あった」という。今回は生産工程から出てくる廃材ではあるが、1度使われた中古品のリサイクルではなく端材のため、素材は新品のようなものだ。
レディメイドはプロジェクトごとに有志のデザイナーが参加していたが、次第にメンバーが固定し現在は11人。今回は8人が参加した。委員会では「単なる製品提案ではなく商品化につなげたい」という声が高まっており「配財プロの他のメンバー企業の廃材も見てみたい」という。
ただ、商品化には販路の開拓などハードルは高い。廃材の量は本来の生産品目の量に左右されるため、安定供給にはおのずと限界がある。ニットの端布などはデザインが皆異なる。だから「それを逆手にとらえて、今しか手に入らない商品」として売るのも手だ。18の商品は価格を付けていない。製造原価はある程度わかるが、流通ルートを考えて売価や卸値を考える必要がある。

まずはデザイナーが自由に商品を考えたが「携帯機器関連、食器関連など分野を絞り込んだり、1つの商品について形や大きさのバリエーションを作ったりする必要があるかもしれない」(小林氏)。中小企業側も量産時のコストダウンやシリーズ化の可能性を提案するなど、より事業化を想定した共同作業が求められそうだ。
自社製品を持ちたい中小企業がデザイナーと組んで新製品を共同開発する動きは各地であるが、みな成功しているわけではない。失敗する典型例はデザイナーが原価を考えずにデザインを考え、中小がそれに応えようとこちらも原価を考えずに頑張ってしまうケース。何とか製品はできても市場で売れる価格で売ろうとすると赤字になる。
レディメイドと配財プロも素材の原価がゼロに近いという点と環境に優しいという2つの強みはあるが、売ろうと考えればこれからが正念場だ。
ただ「デザイナーの発想は予想外で面白い」(サトウ化成の佐藤憲司専務)
「企業側はみんな若くて商品にしてやろうとやる気満々」(羊のホルダーを提案したデザイナーの關博旨氏)と出会いは上々。行政がからまず、企業とデザイナーの1対1でもなく、デザイナーグループと中小企業群という新しい試みは成功して欲しい。
(産業部 三浦義和)