再生エネの課題が生む新ビジネス 日本企業、米国で"種"発掘
太陽光や風力など再生可能エネルギー導入の機運が高まっている。だが、再生可能エネルギーには、天候まかせで出力が安定しない、発電の適地から需要地まで送電線の新設が必要など課題も多い。実はこの克服が新たなビジネスの"種"となる。そこに着目し、米国で事業発掘に取り組む日本企業がある。

米カリフォルニア州で10月1日、ガスタービン発電所が稼働した。三菱商事が2億4000万ドル(約200億円)をかけて、サンフランシスコ郊外に建設・運営する「マリポサ発電所」だ。出力は20万キロワット。全量を地元の大手電力会社、パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック(PG&E)に売電する。
ところが、ガスタービンはいつも回っているわけではない。11月末まで2カ月間の稼働率は5.8%。むしろ動いていない時間のほうが長い。この発電所が夏の昼間など電力需要が増える「ピーク」時の供給を目的としているからだ。
求められるのは瞬発力だ。発電所に設置するガスタービン4基はいずれも航空機用のジェットエンジンを発電用に転用したもの。浜田哲・北米IPPチームリーダーは「要請があれば10分で起動させることができます」と語る。
電力会社は「ベース」と呼ぶ、昼夜や季節にかかわらず安定した電力需要には原子力発電や石炭火力発電を使う。出力が大きく、発電コストも安いが、急な出力変更には向いていない。原発は起動から安定した出力に達するまで1週間かかる。
これに対し、ピーク用の電源は急激な需要変化に対応する必要がある。PG&Eは前日までにマリポサ発電所に必要となる発電量を指示してくるほか、想定外の需給変動に緊急で送電を求めてくるケースがある。要請に即座に発電できるよう備えるのが役目だ。
この能力が再生エネルギーの普及に欠かせない。太陽光や風力は天候次第で出力が大きく低下することがある。その際、すばやく発電して不足分を補えるのがガスタービン発電所の強みだ。シェールガスと呼ぶ新型資源の生産増大で燃料となる天然ガスの価格が下がっているのも追い風だ。
電力会社は従来、ピーク調整用の電源は自社で保有していた。マリポサ発電所は電力を10年間、PG&Eに売る。一方で燃料の天然ガスは同社から供給を受け、発電量にかかわらず一定の固定費を受け取る。
PG&Eは稼働率の低い発電所を自社で持たず、外部に切り出して資産が膨らむのを抑えられる。供給力が足りなくなればマリポサ発電所からいつでも調達できる。マリポサとの契約にあたっては入札で調達先を競わせており、調達コストの低減にもつながる。
三菱商事は米国を発電事業の重点市場に位置付けている。既存の発電所を買収したり、他社と共同で発電所を建設したりするなど、10カ所以上で発電事業を展開している。しかし、建設地の選定から建設・運営まですべて手掛けるのはマリポサ発電所が初めてとなる。
米国での発電所の建設・運営で一歩先行したのがJパワーだ。
2010年6月にカリフォルニア州サンディエゴ近郊で稼働した「オレンジグローブ発電所」は出力9万6000キロワット。地元電力会社に25年間、売電する。マリポサ発電所と同じようにピーク調整用の発電所だ。

Jパワーがテキサス州のガス発電所の権益を一部買収して米国市場に参入したのは06年。石炭火力を含む9件の実績があるが、自社で開発した案件はない。10番目となるオレンジグローブ発電所は、地元との調整や設備の発注、建設管理から稼働後の運営・保守まですべて、Jパワーが米企業と設立した合弁会社で手掛けた。
IPP運営管理室の寺田強室長は「買収案件はリスクが小さい分、リターンも少ない。ゼロから自前で手掛けることで収益をすべて手にできる」と語る。
Jパワーは04年の完全民営化以前から海外で電力分野のコンサルティング事業を展開してきた。海外での発電事業の出力は、インドネシアやタイなどで進行中の案件も含めると800万キロワットとなり、国内の中規模電力会社に迫る。寺田室長は「競争力のある電源を造る経験は国内外で生きるはず」と指摘する。
再生可能エネルギーの普及には、送電線の整備も大きな課題だ。風力発電に適した場所は遠隔地にならざるをえない。需要の集まる都市に電気を届ける送電線が必要であり、整備には巨額の設備投資の問題が立ちはだかる。
丸紅は米グーグルやスイスの投資ファンド、ベルギーの送電事業者などと、米国東岸の沖合に大規模送電網を敷設・運営するプロジェクトに取り組んでいる。

ニュージャージー州やメリーランド州など大西洋に面した各州では、洋上風力発電所の建設計画が相次いでいる。各州が再生可能エネルギーの導入義務を達成する必要に迫られているためだ。
丸紅やグーグルが計画する海底送電線は総延長560キロメートル、770万キロワットの送電容量を持つ。洋上風力の電力を陸上に送り、州をまたぐ基幹送電網を整備して米国東部での送電能力の不足を解消する狙いだ。
想定する建設費は63億~82億ドル(5300億~6900億円)と巨額だ。しかし、整備にかかるコストは電気料金の原価に組み込む総括原価方式で回収し、一定の利益が保証される見通しだ。丸紅などはまず20年にニュージャージー州で運用開始を目指している。計画する海域での事実上の独占開発権も得た。
米国東部では日々の送電線の運用や電力の需給調整は、送電線の所有者ではなく、PJMと呼ぶ独立系統運用機関が手掛ける。全体のバランスを考えた送電網の整備計画も立案する。丸紅などの計画もここでの承認が必要だ。PJMは計画の経済性や費用分担について各州や電力会社、消費者団体などと協議を始めている。
ピーク発電所の建設・運営や送電事業への参入は、発電部門と送電部門の分離や電力取引市場の整備など電力改革が前提になる。発電と送配電を電力会社が一体運営する今の日本では不可能だ。しかし、東日本大震災は硬直化した電力システムの限界をあぶり出した。再生可能エネルギー導入の速度も上がっている。日本企業が海外で蓄積する経験を国内で生かす時代はそう遠くないのかもしれない。(編集委員 松尾博文)