GEの変身 世界で募るアイデア、賞金は2億ドル
編集委員 西條都夫

「クラウド・ソーシング」という言葉をご存じだろうか。クラウドは今はやりの雲(cloud)ではなく、群衆(crowd)のこと。「ソーシング」はアウトソーシングのsourcingで、調達を意味する。意訳すれば、「どこの誰だか分からない群衆から何かを調達する」とでもなるだろうか。
米ゼネラル・エレクトリック(GE)が企業にとって最も大切なモノをクラウド・ソーシングするという。最も大切なモノとは、価値を生むための「新しいアイデア」だ。
GEのジェフ・イメルト会長は7月13日、米シリコンバレーの地で、スマートグリッド「次世代送電網」についてアイデアを世界中から募り、優れたものには総額2億ドル(約174億円)の賞金を与えると発表した。
東京でも日本GEが7月14日、スマートグリッドをめぐるシンポジウムを開催した。冒頭あいさつに立った日本GEの藤森義明社長は「スマートグリッドがらみで面白いアイデアがあっても、研究資金がないといった理由でそのまま眠っているモノも多いはず。大学の研究室やものづくり系の企業の皆さんから、積極的な応募を期待したい」と呼びかけた。
GEといえば創業者のエジソン以来、電力システムの開発では世界のトップを走ってきた。そんな名門企業がどこの誰とも知らない人からなぜアイデアを募るか。
スマートグリッドの本質をごく単純化して言えば、これまで「巨大発電所→家庭や企業」という一方通行だった電気の流れを双方向化するということだ。家庭や企業も太陽光発電などで電力の「作り手」になり、余ればそれを電力会社に売ることもある。他のインフラでたとえるなら「テレビ局→家庭」という一方通行の放送型から、双方向で情報をやりとりするインターネット型への移行に等しい。
いわば過去100年続いた電力インフラの大改築であり、この変革を乗り切るには、さすがのGEでも内部資源だけでは十分ではない。「クラウド・ソーシング」や「オープン・イノベーション」の手法を導入して、会社の外部の「知」を積極的に取り入れることが、イノベーション競争を勝ち抜く早道と判断したのだ。
外部のアイデアを積極的に取り入れる経営は、知識集約的な製薬やIT(情報技術)産業で珍しくない。米国には「イノセンティブ」というウェブサイトがある。製薬大手もイーライ・リリーやプロクター・アンド・ギャンブルが「質問」を提示し、世界中の研究者(20万人以上が登録)がそれに回答を示す。
優れた回答には「アワード(賞金)」を贈り、その総額は累計で2400万ドル(約21億円)に達したという。各企業は自分たちだけでは十分な知恵の浮かばない問題をネット上の研究者集団に投げかけ、そこでアイデアを調達するのだ。問題の1例としては「メキシコ湾の原油流出を止めるうまい手段は?」などがある。
GEの2億ドルスマートグリッド・プロジェクトは、こうしたオープンイノベーションの波が重電という伝統的な事業領域にまで及んで来たことを示している。しかも2億ドルというアワードの額は半端ではない。このプロジェクトがどんな成果を収めるか。日立製作所や東芝といった日本の重電メーカーも無関心ではいられないだろう。