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ジャパンディスプレイ上場へ 官主導くすぶる懸念

編集委員 安西巧

日立製作所東芝ソニーの中小型液晶パネル事業を統合して2012年4月に発足したジャパンディスプレイ(JDI)が3月19日、東証1部に上場する。同社が増資などで調達する資金は最大1700億円。スマートフォン(スマホ)やタブレット(多機能携帯端末)向け液晶パネルを生産する茂原工場(千葉県茂原市)などの能力増強や技術開発に充てる方針だ。ソニーの赤字転落など暗いニュースがいまだに目立つ電機業界には朗報だろう。しかし、JDIは政府系ファンドの産業革新機構が86.7%出資する"準国営"の企業。スタートからわずか2年のスピード上場が実現すれば確かに経営陣や社員の苦労は報われるが、一方で「民間主導でも統合はやれたのではないか」という疑問が今さらながら湧いてくる。

売却益は1000億円

東芝、日立、ソニーが中小型液晶事業を統合し、ジャパンディスプレイが発足した。記念写真に納まるジャパンディスプレイの大塚周一社長(中央)ら(2012年5月2日、東京・大手町)

ビジネス界からの引退を思い直して2年前に新生JDIに転じた大塚周一社長(元エルピーダメモリ最高執行責任者)以下の経営陣、消費電力を8割削減できる反射型液晶パネルの量産化を実現した技術陣など同社が人材に恵まれていたことがスピード上場の"勝因"の一つ。13年の中小型液晶市場でのJDIの世界シェアは17%でトップ。今後は20%超の世界シェアを持つ車載用パネルなどで中国、台湾勢との激戦に勝ち抜く戦略が求められる。

JDIは上場に際し国内外で最大1億5800万株を公募増資して約1700億円の資金を調達する方針。産業革新機構が出資額の約半分を売り出して約2000億円を回収するほか、それぞれ4.3%ずつ出資する日立、東芝、ソニーも持ち分を一部売却するとみられる。今回のIPO(新規株式公開)に伴う総調達額は最大で約4000億円に達し、上場時点で「アジアで今年最大規模のIPOになる」(市場関係者)見通しだ。

今回のIPOでの革新機構のキャピタル・ゲイン(売却益)は1000億円程度とみられている。能見公一・同機構社長はかねて「我々は成長を支えるのが役割で事業再生とは違う」とし、投資対象企業に債権カットなどによってV字回復をもたらすのが機構の目的ではなく、政府系ファンドの出動による"投資インパクト"によってコーポレート・ガバナンス(企業統治)の改善や再編、技術革新などを促すのが狙いと説いている。

リスクを国民に転嫁

2013年6月に稼働したジャパンディスプレイの茂原工場(千葉県茂原市)

「民業圧迫だ」との批判に対しても民間のベンチャーキャピタル(VC)と協調していると否定。同じ案件を共同で手がける際には「民間のVCは我々が出資を決定することで投資先が成功する確率が高まると思っている」と主張している(「日経ビジネス」13年5月13日号)。農林中央金庫在籍時にトレーダーやファンドマネジャーとして実績を積んだ能見氏ならではの絶妙なファンド運営を評価する声は多い。

ただ一方で、革新機構が成功を収めれば、それだけ産業界の官依存が高まることを懸念する声も少なくない。中小型液晶パネル事業をJDIに切り出した日立、東芝、ソニー3社の13年3月期連結純利益の合計額はざっと3000億円。14年3月期(予想)は日立と東芝の2社の純利益合計で3150億円だが、ソニーは1100億円の赤字予想なのでそれを差し引いても2050億円になる。

革新機構は総額2兆800億円のファンドであり、そのうち民間出資はわずか140億円で、残り2兆660億円は政府出資と政府保証枠で賄っている。要するに、純度99%の政府系ファンドである。JDIへの投資は、とりあえず出足は成功したものの、出資から回収までのリスクは政府、すなわち国民が負うことになる。なぜ、年間2000億~3000億円の利益を出している大企業が本来負うべきリスクを国民に転嫁されているのか。「日本の"ものづくり"を守るため」という永田町や霞が関界隈(かいわい)からしばしばなされる説明はさほど説得力はない。

JDIに続いて革新機構は昨年9月、NEC、日立、三菱電機の大規模集積回路(LSI)・マイコン事業を統合したルネサスエレクトロニクスに1383億円を出資したほか、ソニーやNECなどの電池事業を統合する構想を浮上させるなど、電子デバイスの再編に積極的に関与する姿勢を打ち出している。こうした戦略や構想には必ずといっていいほど「日の丸半導体」「日の丸電池」といったキャッチフレーズが付与されている。

政府系ファンドが存在感を増してきたのはリーマン・ショックに対峙(たいじ)した自民党・麻生政権(08年9月~09年9月)以降で、官製資金の活用は民主党政権にも引き継がれたが、12年12月に発足した安倍政権で一段と加速している感がある。例えば、経済産業省が推進役になって昨年12月に国会で成立し、今年1月に施行された「産業競争力強化法」では、企業間の過当競争を是正するため業界再編を促す施策が盛り込まれている。

官業膨張への警戒感

ジャパンディスプレイはパナソニックから買収した大型液晶工場を中小型向けに転換した。(ジャパンディスプレイの茂原工場)

同法の審議過程では半世紀前に経産省の前身である通商産業省が省を挙げて法案をまとめた「特定産業振興臨時措置法」(特振法)の"焼き直し"ではないかとの警戒感が産業界には広がった。特振法は社会主義的な計画経済と自由経済を合体させたフランス流の「混合経済」が元になっており、業界再編や企業の設備投資を官主導で進めようという狙いが見え隠れしていた。

当時二輪車メーカーだった本田技研工業(ホンダ)の本田宗一郎社長は「特振法ができればわが社の四輪車進出の機会が永久に失われる」と強く反発し、急ピッチで四輪車開発を進めたというエピソードがある。1963年当時、経団連会長だった石坂泰三氏をはじめ経済界にも反対意見が広がり、最終的に廃案になった。

「経産省内閣」とも呼ばれる安倍政権は特振法時代の「大きな政府」を志向しているように見える。革新機構など政府系ファンドへの出資を含む政府の「産業投資」は昨年末時点で前年末比13%増の4兆6069億円に達しており、金融界には民業圧迫になりかねないとの懸念が根強くある。一国の経済を活性化させるには、官業や規制をできる限り縮小し、民間活力を最大限に発揮させるための「小さな政府」が最も有効というのが20世紀終盤以降の世界の常識だった。安倍政権の経済政策「アベノミクス」にこのところ一時の勢いが感じられないのは官業膨張への警戒感が高まっていることに原因の一つがあるのかもしれない。

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