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アップルに気づかされたプリント基板材料の意外なニーズ

はんだなどプリント基板材料を手掛けるタムラ製作所には隠れたヒット製品がある。プリント基板の表面に塗布し、余計な部分へのはんだの付着を防止する絶縁材「ソルダーレジスト」だ。同社はスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)など超小型、薄型の機器で使われる「フレキシブル基板」向けのソルダーレジストに2009年に新規参入。スマホ最大手の米アップルに採用され、4年目の今期は年12億円強の売り上げを見込むまでに育った。だが、その成功のきっかけは製品の性能ではなく色にあった。

「『白が作れるなら黒もやれるだろう?』とフレキシブル基板メーカーに言われたのが最初だった」。タムラ製作所で電子化学事業の開発を束ねる清田達也執行役員は明かす。

同社は09年、フレキシブル基板で使える白色のソルダーレジストを開発して市場に参入した。フレキシブル基板に発光ダイオード(LED)を取り付け、液晶テレビのバックライトや照明などに利用する用途を見込んだ。「光を反射してLEDの光量を効率的に利用できる白のレジストに需要がありそうだと考えた」(清田氏)。

白のソルダーレジストは光を反射する「フィラー」と呼ぶ素材を大量に混ぜ込めばできる。だが単に混ぜ込むだけではレジストが硬くなり、フレキシブル基板の利点である柔軟性を損なってしまう課題があった。そこで同社は、基材となる樹脂を改良して柔軟性を高め、フレキシブル基板を折り曲げてもはがれないレジストを完成させた。実は従来手掛けてきた一般プリント基板向けのレジスト部門の収益が年々悪化しており、フレキシブル基板向けの「白レジスト」は起死回生の一手になるはずだった。

ところが「期待に反してさっぱり売れなかった」(清田氏)。そこで高い折れ曲げ性をアピールするために、白レジストを塗布したフレキシブル基板で折り鶴や戦闘機を作って見せたりもした。それがあるフレキシブル基板メーカーの目に留まった。白は要らないが、黒のフレキシブル基板用がもしできるなら採用を検討すると言ってきたのだ。

開発現場は戸惑った。黒を作ること自体は難しくないが、なぜ黒が必要か分からなかったからだ。余計なはんだの付着を防ぎ、基板を保護し、絶縁するというレジスト本来の目的と、色は関係ないはず。フレキシブル基板は製品内部で使われるため、一般の目には触れない。実際、一般的なフレキシブル基板用レジストは青や緑などが多く、レジストを使わないこともある。ところが先方は「つや消しの黒、色はなるべく漆黒に近づけて」などとまるで外装デザイン向けのように色味まで細かく指定してくる。半信半疑のまま、幾つかサンプルを作って持ち込んだ。

「どうやらフレキシブル基板メーカーも機器メーカーの無理難題に苦戦していたらしい」と清田氏は分析する。つや消し黒レジストも白と同様、大量のフィラーを混ぜ込む必要があるためだ。だが、単に混ぜ込むだけではフレキシブル基板の柔軟性が損なわれる。「他のレジスト・メーカーはそこをクリアできず、新参の我々に声が掛かった」(清田氏)。発注元である機器メーカーの名前や用途は明かされなかったが、「色味などの修正を細かく求められ、かなりのこだわりを感じた」(清田氏)という。正式に採用が決まった時には「先方の眼鏡にかなったのは御社だけだった」と伝えられた。

10年に採用が決まると予想をはるかに超える大量の発注が始まった。うなぎ登りに出荷が増え、瞬く間にレジスト部門の稼ぎ頭に成長した。12年3月期に44億円を売り上げる同部門の10%強がフレキシブル基板用レジストの売り上げだという。

黒レジストを使ったフレキシブル基板の納入先はどうやら米アップルだったらしいとタムラ製作所が気づいたのはずっと後、黒レジストフレキシブル基板を採用した「iPhone」や「iPad」の出荷が始まってからだ。アップル製品は発売のたびに分解され、インターネットのウェブサイトなどに内部構造の写真が掲載される。そこで使われていたのは紛れもなくタムラ製作所の黒レジストを使ったフレキシブル基板だった。

黒の成功に気をよくしたタムラ製作所は次に、フレキシブル基板用レジストの「カラーバリエーション」に乗り出す。先述の通りレジストの色自体に技術的な意味はないが、「黒にこだわる顧客がいるなら、他の色が欲しい顧客もいるかもしれないという安直な発想だった」と清田氏は笑う。開発済みの白と黒に加え、黄や赤、青など全部で8色のフレキシブル基板用レジストを用意。各色を混ぜて使うことで様々な色にもできる。清田氏や営業マンが顧客を訪問する際は、72種類の異なる色のレジストのサンプルを持ち込んで見せるという。

色違いのレジストは予想外に引き合いがあり、既に幾つかの特注色で受注も得ている。アップルのように機器内部のデザイン性を求める目的に加え、機能別に基板を色分けしたり、不透明なレジストを使ってフレキシブル基板の配線を隠し、回路設計を解析されにくくするといった目的で採用を決めた顧客など様々なニーズが発掘できた。「色違いのフレキシブル基板用レジストを求めるニーズは思ったよりずっと広い」と同社は手応えを感じている。

タムラ製作所のフレキシブル基板用レジストは、米国規格に準拠する難燃性と、ハロゲン素材を含まない環境性能などを兼ね備える。清田氏は「環境性能の高さと高い柔軟性を兼ね備える樹脂基材の開発がキモ。高いポテンシャルを持つ素材があったから(アップルの)厳しい要求にも対応できた」と成功の要因を振り返る。今後はこの樹脂素材を生かし、基板の接着など、ソルダーレジスト以外の用途にも応用製品を広げていく考えだ。

(産業部 山田剛良)

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