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バイオ燃料頼みの危うさ 穀物高騰や生産効率が課題

今年夏以降、小麦、トウモロコシなど穀物価格が高騰、高止まりが続いている。北米に始まり、中国、ロシアなどに広がった干ばつによる不作が直接的な原因だ。穀物先物市場への投機マネーの大量流入も大きな要因ではあるが、投機マネーを誘い込んだのは不作による穀物の在庫率の低下だ。

21世紀に入って、こうした穀物の価格高騰が起きた時に必ず起きるのが「食糧対エネルギー」という議論だ。トウモロコシやサトウキビ、さらに小麦、菜種、パーム油などから生産されるバイオ燃料が人間の食べる食糧を消費し、食糧不足を招くという危機論である。

確かに米国では毎年1億2000万トンものトウモロコシがエタノール生産に使われている。これは米国のトウモロコシ生産量の30%超にのぼる。もし、エタノールの原料となるトウモロコシが食糧として供給されれば、価格高騰は収まるという理屈は誰が考えても確かだろう。

にもかかわらずトウモロコシをエタノール原料にする動きが止まらないのには理由がある。「E10」だ。米国では自動車用燃料のガソリンに10%の比率でバイオエタノールを混ぜることが義務付けられている。空気中の二酸化炭素(CO2)を吸収する植物を起源とするバイオエタノールは「カーボンニュートラル」であるため10%混ぜれば、その分、CO2排出削減につながるからだ。米国にとってバイオエタノールはCO2排出削減の切り札にもなっている。

逆に言えば、10%を達成するために米国ではエタノール原料のトウモロコシを食糧に回せないという事情がある。「E10の罠(わな)」である。不足する分はブラジルからサトウキビを原料とするエタノールを輸入する選択肢もあるが、大量に確保することは難しい。さらに悩ましいのは、原油高でガソリン価格が上昇している時はエタノール価格も上昇、農家はトウモロコシを食糧よりもエタノールに回した方が利益を高められるという力学が働くことだ。

結果的に原油高はエタノールを経由してトウモロコシなど穀物価格との連動性を高めている。もともと米国でトウモロコシからエタノールを生産したのは、トウモロコシの過剰生産により相場が暴落、農家の経営が立ちゆかなくなったからだ。決して、食料を犠牲にしてエネルギーを生産しようとしたわけではない。だが、現状ではエタノール生産の穀物市場への影響は年々強まっている。さらに各国が輸送用燃料に占めるバイオ燃料の比率を高め始めれば穀物や油糧種子の市場や生産は大きく揺さぶられることになるだろう。

 世界には一般に言われるのと違って、穀物増産の余地がかなりある。ブラジルの乾燥地セラードはまだ大半が未利用地で灌漑(かんがい)設備を備えることで10億人分以上の食料を生産できるという試算がある。ウクライナやロシア、カナダ、東アフリカなどもそうだ。食料に影響がでないほど穀物を増産すれば、バイオ燃料と食料は完全に切り離すことができるだろう。だが、そこまで増産すれば、当然、穀物価格は暴落、世界の農民は路頭に迷いかねない。

バイオ燃料には穀物ではないセルロース系植物を原料とする技術も開発されつつあるが、生産効率など難しさが残っている。バイオ燃料は重要な再生可能エネルギーだが、限界がある。それを突破しようとすれば、ガソリン、天然ガスやバイオエタノールを随時、切り替えて燃料にできる複数燃料化やハイブリッド化を進めるしかない。トウモロコシの需給が逼迫している時にはガソリンを使ったり、プラグインハイブリッド車ではバッテリーによるモーター駆動の時間を長くしたりするという選択肢を確保することが重要になる。

バイオ燃料のみという車やエネルギー供給構造には不安が残る。バイオ燃料はほかの選択肢を用意した複線的な利用で良さが発揮される。これは太陽光発電や風力などほかの再生可能エネルギーにも共通する。原発を廃止して再生可能エネルギーを中核にしようというエネルギー論のリスクはそこにある。

(編集委員 後藤康浩)

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