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苦境の造船が挑む成長市場 海洋開発投資、商船分野に匹敵

中韓勢の攻勢や船舶の供給過剰に伴う新造船の減少などで苦境に立つ日本の造船大手。アイ・エイチ・アイマリンユナイテッド(IHIMU)とユニバーサル造船の統合など再編ムードが強まるこの業界が、造船に匹敵する事業規模を持つ成長市場を抱えていることはあまり知られていない。海洋資源を掘削する海洋開発分野だ。関連投資は世界で年6兆円規模に拡大しており、今後も右肩上がりで成長する見通しだが、日本勢のシェアはわずか1%にすぎない。成長市場での存在感を確保するための取り組みが始まっている。

10月下旬、名古屋港に面するIHIの愛知工場(愛知県知多市)。日本海洋掘削所有の海洋掘削リグが、マレーシア沖での新たな任務に向けた準備を進めていた。新造から約40年たったリグを改造し、延命のため補強材と浮きの役割を果たす構造物などを取り付けた。

IHIの愛知工場で改修工事が完了し公開された海洋掘削装置「NAGA1」(10月22日)

「改造工事で新造に向けたノウハウを獲得できた」――。安部昭則執行役員が狙うのは2~3年後の新造受注だ。リグは海洋分野進出の軸となる製品の1つ。次世代エネルギー資源「メタンハイドレート」など日本近海でも海洋資源開発が進む見通しで期待も大きい。

大量引き渡しによる船舶過剰、中国の生産能力引き上げによる需給ギャップ拡大、円高による競争力の低下――。日本船舶輸出組合がまとめた輸出船契約実績をみると、日本の受注量は2011年で896万総トン。06年と比べると3分の1の水準まで落ち込んだ。現時点の受注残はおおむね1年半程度とされ、2014年にも造る船がなくなる造船所が出かねない。

逆風に立ち向かう造船大手の首脳が、こぞって将来の収益源と位置付けるのが海洋分野だ。ユニバーサル造船の三島慎次郎社長も「IHIMUとの統合で技術者が増えれば、海洋開発船の設計に人を割く余裕ができる」と統合新会社での海洋開発に色気をみせる。

伸び悩む商船分野に比べて、海洋開発分野の需要は活発だ。海洋構造物や支援船などへの投資額は12年で約6兆円。20年には11兆円弱にまでふくらむ見通しだ。リーマン・ショック以降、低迷が続く商船部門の受注額は年5~6兆円にとどまっており、「一般商船が伸び悩んでいるぶん、海洋開発の投資額が上回っている可能性もある」(国土交通省)という。

各社が注目するのがブラジルだ。5月に川崎重工業がブラジルの造船企業に出資を決めたのに続き、6月にはIHIMUがブラジル最大級のアトランチコスル造船所との技術支援契約を結んだ。

石炭や鉄鉱石など資源輸送の活発化が見込まれるブラジルに提携先を持つことで、商船受注につなげたいとの狙いはもちろんある。だが進出の一番の狙いは、活発な海洋油田開発事業に参画する足がかりを得ることだ。

原油価格の高止まりなどもあり、海洋開発の投資は旺盛で、ドリルシップだけでも年40隻弱が契約されているという。海洋プラントに資材や燃料を運んだり、いかりの巻き上げなどを補助するオフショア支援船の場合、「年200隻を超える規模の需要がある」(国交省)とされる。

 川重の神林伸光常務も海洋分野に期待を込める造船首脳の1人。3割を出資したブラジル企業では、海底油田を試掘する「ドリルシップ」の建造を予定する。建造を支援することでドリルシップを含めた海洋開発分野のノウハウを蓄積できるだけでなく、他の船への波及効果も期待できる。

「PSVと呼ばれる支援船は規模が小さいものの数が必要になる。ブラジルだけでは賄いきれないため、我々に声がかかる可能性は高い」。海洋プラントから陸地へピストン輸送する液化天然ガス(LNG)輸送船の需要も期待できる。

もちろん海洋プラント分野でも事業拡大の準備は進む。11月に国営石油会社ペトロブラスから、浮体式洋上石油・ガス生産・貯蔵・積み出し設備(FPSO)1基の受注が内定した三井海洋開発は、ブラジルだけでなく東南アジアの中小型案件受注に向けた準備を進める。安定した収益源を確保する狙いだ。東洋エンジニアリングと組んで開発した小型の洋上LNG生産設備についても投入準備を進めている。

三井海洋開発はFPSO分野で大手3社の一角を占める

「ブラジル向けなどの大型案件に比べると、東南アジアはプラントの規模が小さいぶん、工期が短くリスクも小さい。若手に中小型案件をまかせることで、人材育成につなげる狙いもある」と三井海洋開発の宮崎俊郎社長は話す。欧州の金融不安などで停滞していたプラント案件が一気に動き出す可能性もあり、人材育成は喫緊の課題だ。

海洋開発が進めば、三菱重工業や三井造船が持つ海洋資源を探索する船やロボットの出番も増える。三井造船は海底資源を無人で探査する水中ロボットで、衝突を回避できる機構を取り入れた新型を年度内をめどに開発する方針。センサーを改良することで複数のロボットを同時に稼働でき、探査期間を従来の3分の1程度に短縮できる。

洋上でのLNG生産に使われるプラントの実用化が進めば、IHIが得意とするタンクの拡販にもつながる。IHIのSPBタンクは、タンク内に隔壁を設置することでLNGの貯蔵量にかかわらず揺れによってタンク内壁に過剰な圧力がかかることを防げる。生産・貯蔵・積み出しにより液量が変化する洋上プラントにはもってこいだ。

FPSOのエンジニアリング分野で大手3社の一角を占める三井海洋開発があるとはいえ、海洋開発分野の建造では日本は大きく出遅れている。中古の大型タンカーなどを改造できる大型ドックが少ないこともあるが、海外勢に比べて価格競争力に劣るためだ。11年秋時点の手持ち工事量を金額ベースでみると、韓国が4割弱を占め、シンガポールと中国がともに14%、ブラジルが9%で続く。日本のシェアは1%にすぎない。

海洋開発へ進出するには、商船とは異なる発想も必要になる。川重の神林常務は「これまで造船技術といえば、効率よく荷物を運ぶための船型が重要だった。だが海洋開発の船は、運ぶよりも掘り出すなどの仕事が中心。船の上にのせるプラント部分が大切で、そこから逆算して船型を考える必要がある」と言い切る。

1隻あたり1000億円を超える規模になる洋上プラントはリスクも大きい。経済が冷え込んで融資がとまれば、プロジェクトが停滞することも考えられる。ただ隻数の多い支援船やタンクなどのプラント機器も、一定以上の市場規模が見込める。洋上LNGプラントでも9月に、マレーシアの国営石油会社ペトロナスから日本の2陣営が基本設計業務を受注した。懐が広い海洋開発への進出には、日本勢の持つ製品群の技術力を生かせる分野で勝負できるかの見極めが重要になる。

(産業部 長縄雄輝)

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