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「エコアイランド」宮古島のジレンマ

巨大な建屋の中で、真新しい銀色の施設が蒸気を噴き上げながら動いている。沖縄県宮古島市で地元の石油販売事業者、りゅうせき(沖縄県浦添市)が運営する島のサトウキビからバイオエタノールを作る工場。"地産地消"のエネルギー作りを担う施設と期待を集めたが、生産を大規模に進めるにあたり問題が浮上している。製造するバイオエタノールの15倍もの量が出る真っ黒な色をした残さ液の処理だ。栄養分を多く含んでいるものの、そのまま畑にまくと、島の水源である地下水を汚染してしまう可能性がある。国の支援する「エコ」な試みが、新たな環境問題を生み出しかねない。安全な水と自前でのエネルギーの確保へ、南の島で両立への模索が続いている。

3年前の夏。今よりも一回り小さなバイオエタノール工場のそばに近づくと、異様なにおいが鼻をついた。エタノール製造の際に発生した残さ液が屋外のプールに放置され、腐ってボコボコと泡を浮かべていた。島内ではこれだけの液体廃棄物を処理できる施設はなく、遠く沖縄本島まで船で運ばれ、処理していたという。大量の副生成物を石油で走る船で運ばなければならないのなら、植物から作ったエタノールも、とてもエコな燃料とは言い難い。

当初から、糖分が多く残る残さ液は肥料としてサトウキビ畑にまいて、養分を土壌に戻そうとする構想だった。だが、真っ黒な色素はわずか80センチメートルの厚さしかない宮古島の表土で分解されず、そのまま地下水のある層まで通り抜けてしまいかねない。水源が真っ黒い色に汚染される原因になる可能性があることから、一部の農家だけでなく市役所の中からも反対の声が上がり、肥料として使う動きは立ち消えになった。処理に困ったりゅうせきが、一時的に屋外に残さ液を置いていたのが腐り、においを発していたのだった。

サンゴ礁でできた平たんな島である宮古島では、ごく最近まで淡水の確保は切実な課題だった。雨の降る量は多くても、しみ込みやすい土壌で地表には残らない。川と呼べるほどの川はないなかで、島は長らく水不足に悩んでいた。宮古島でサトウキビ産業が発達したのも、少ない水で大きく育つ農作物であったことが大きな理由だった。

水を巡る環境が大きく変わったのは地下水を地下でせき止める、国内有数の規模の「地下ダム」が建設されてから。宮古島の地下にはサンゴによってできた多孔質の透水層が薄い表土の下に厚く存在している。島の地下にはいくつもの地下水の流れがあり、コンクリート製の壁を「下流」に埋めることで、地下水の流れをせき止めた。水をためることができなかった島に、待望の水がめができたのは1990年代になってからだった。

「地下ダム」のおかげで、島で使える水の量は飛躍的に増えた。農業用水も増えて、サトウキビだけでなくマンゴーやゴーヤー、ピーマンなど、より多くの水を栽培に使う作物の生産も可能になった。それでも、年配者にはまだ、遠くにまで水くみに行った記憶が残っている。宮古島でバイオエタノールの普及を加速するならば、残さ液の処理問題をクリアすることが必要条件なのだ。

バイオエタノールの生産量を増やすため、能力を大幅に拡大した新しい施設では、残さ液を腐敗させないために、水などが入り込まないように密閉できるタンクを作った。4月からは工場が持つタンクローリーで地下ダムがためている水の汚染に関係しない場所の畑に残さ液を持って行って肥料として使う試験も始めている。

そのまま畑にまくことに抵抗がある場合は、サトウキビの搾りかすに含ませ、堆肥(たいひ)のようにして使う活動も始めている。これまでのところ、残さ液をまいた畑のサトウキビの生育はほかの畑のサトウキビよりも良いという。実績を積むことで、残さ液の島内での有効利用先を増やし、廃棄物利用を含めた正真正銘の"地産地消"を作り出したい考えだ。

国の肝いりで始めたエタノール生産にもこれだけの配慮を求めるほど、「島の政策の基本は、命の源泉となる地下水の保全」(沖縄総合事務局)。しかし水質保全に気配りをしていながらも、地下水の質を高い水準で保全するのは難しい。

かつて、化学肥料に使われるチッソ分の濃度が地下水の中で急速に高まったことがあった。原因とされた地区で肥料を堆肥に代えるなどの対策を浸透させ、なんとか濃度の上昇をふせいだという。宮古島市は水源地帯での開発行為を規制できる地下水保全条例を設けている。いったんは誘致を受けた東京の大手資本の大型リゾート施設が、住民の反対運動の末に建設断念に追い込まれたケースもあった。いまも、塩分濃度がじわじわと上昇するなど、水質への不安が尽きないなか、市は地下水を守るための調査を毎日続けている。

実験レベルだったエコを掲げる事業が本格的に広がるにつれて、その波及効果は新たな問題を引き起こす。「バイオ燃料と水質保全」の両立という宮古島が直面する課題は「風力発電と騒音」「生物多様性と糞(ふん)害」など全国各地で起こっている課題とも構図は重なる。エコアイランドを標榜(ひょうぼう)する宮古島。抱えたテーマは、普及を迎えたエコ事業のあり方を考える上での普遍的な課題ともいえそうだ。

(産業部 宇野沢晋一郎)

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