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大学院が光ベンチャーのゆりかご 浜松の挑戦

浜松に全国でも珍しい大学院大学がある。光技術を用いた新産業創成を目的とし、浜松ホトニクスが中心となり2005年に開学した光産業創成大学院大学だ。同大学発のベンチャーは約30社に上るなど、徐々に成果も生まれつつある。光産業創成大の挑戦を追った。

10ccで5万2500円

一見、変哲のないただの液体に見えるが、10ccの販売価格は5万2500円。実は液体の中には、直径が100ナノ(ナノは10億分の1)メートル級と極めて小さいうえ、大きさにバラツキがないポリスチレンの粒子が無数に含まれている。リチウムイオン電池の小型化・大容量化の実現につながる新技術だ。

開発したのは光産業創成大発のベンチャー、ナノ・ミール(浜松市)。光を自在に操る「フォトニック結晶」という技術を応用したもので、国内初の技術だ。

発泡スチロールの原料でもあるポリスチレンは火をつけると燃える。その性質を生かし、同社の技術を使えば、内部に非常に小さく、大きさがそろった無数の穴がある金属材料を作ることができるという。

リチウムイオン電池の電極に用いるコバルト酸リチウムに使えば、電極の表面積を一段と広げることができ「電池の小型化・大容量化が実現できる」と内山昌一社長は強調する。昨年末には月産9リットルの量産設備を整え、代理店を通じて本格販売に乗り出した。

内山社長は浜松ホトニクスの社員で、今も同社に籍を置き、出向という形をとる。もともとはホトニクスの研究員だったが、商売人の親の後ろ姿を見て育ち「自分の手でビジネスをしてみたい」という思いが強く、光産業創成大の在学中にナノ・ミールを設立した。光産業創成大発のベンチャー約30社のうち、約4割がホトニクス出身者が起業。残りはホトニクス以外からの人材だ。

工作機械の土台などを作る金属加工業が主力の大建産業(浜松市)。武田信秀社長は現在、すね肉にレーザーを照射することで柔らかくする調理器具の開発に取り組む。地場食材を生かしたイタリア料理で有名な「アル・ケッチァーノ」(山形県鶴岡市)の奥田政行シェフが協力する。

イタリアンのシェフとコラボ

大建産業は08年秋のリーマン・ショック直後に需要が急減。武田社長が仕事のタネを探しているなかで、光産業創成大のことを知る。「もともとレーザー加工に興味があった」という武田社長は10年春に入学。今も学びながら、D-Laser(ディーレーザー、浜松市)を設立、レーザーを活用したものづくりに取り組む。「レーザーに出合って、希望が持てるようになった」と武田社長はほほ笑む。

光産業創成大は光関連技術と経営を専門とする教員が、学生を個別に指導・支援し、光技術関連の起業家を育成する。入学定員は1学年当たり10人程度に絞り込み、3年かけて学位の取得を目指す。ホトニクスの中興の祖とされる昼馬輝夫会長の「光技術を用いた新産業の創成が必要」という強い思いが原動力となった。今もホトニクスは光産業創成大に年間で約1億5000万円を提供し、運営を支える。

起業家増やし新産業生む

ホトニクスの経営にとっても、光技術を活用した起業家が増えることの意味は大きい。昼馬明社長は「光産業は逆ピラミッド型の産業構造」と強調する。昼馬社長の考えでは、同社のようなデバイスメーカーは逆ピラミッドのボトム(底)に位置する。「当社が提供するデバイスを用いて、様々なモジュール(複合部品)やシステム、サービスを展開する企業が増えなければ、我々も伸びない」というわけだ。

光産業創成大が開校して間もなく丸9年。昼馬社長は現状を「まだ非常に苦労している」と評する。それでも少しずつではあるが、ナノ・ミールやD-Laserのような成果も生まれつつある。浜松から光技術を活用した新産業が生まれるか。そのカギを光産業創成大が握っているのは間違いない。

(浜松支局長 漆間泰志)

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