躍進する中国の科学技術 日本は国際協力課題に - 日本経済新聞
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躍進する中国の科学技術 日本は国際協力課題に

編集委員 永田好生

中国が科学技術の力を急速に高めている。最先端の分野ではいくつかの指標ですでに日本をしのぎ、米国に次ぐ存在となってきた。日本は中国と協力を深めながら、独自で強い科学技術を生み出していく必要がある。アジアトップを自任してきた日本の科学技術政策は大きな転換点を迎える。

日米がトップを競ってきたスーパーコンピューターの世界ランキングでこの11月、中国が初めて首位の座を射止めた。国防科学技術大学が開発した「天河1号A」が、それまで1位だった米オークリッジ国立研究所にあるクレイ社製の「ジャガー」を上回った。1秒間の演算回数は約2.6ペタ(ペタは1000兆)回と、ジャガーの1.5倍。中国はランキング3位にも「星雲」が入り、躍進ぶりが際立つ。日本は東京工業大学の「TSUBAME2.0」が4位と、唯一トップ10に食い込んだ。

中国が2003年、「神舟5号」で初めて有人宇宙飛行を成功させたときにも似た反応が、いまの日本にみられる。「中国の技術力はここまで来たのか」という驚きと「国威発揚のデモンストレーション。日本にまだ優位性はあり、気にせず研究開発を進めよう」という主張だ。

国内総生産(GDP)で10年に日本を抜いて世界第2位が確実な中国。科学技術の振興を経済発展の要の政策に位置付け、国民の意気が上がる注目度の高いテーマで「チャンピオンデータ」を誇示する傾向が強い。予算獲得を狙った研究者の自己主張も強く、それが論文の盗用やねつ造などの事件が起きる温床になっているとの指摘もある。

しかし、中国の実力が侮れなくなったことを示す指標は続々と登場している。例えば、世界の主要学術誌への論文発表数。この10年間で中国は世界第9位から2位にのし上がり、日本は2位から5位に後退した。他の研究者が引用する度合いはまだ高くないが、トップクラスの研究者に関しては「日中の差はほとんどなくなっている」との見方が多くなっている。

清華大学などの研究者と親交がある松重和美・京都大学教授は「数年前、私たちの研究予算を中国の研究者はうらやましがった。それが逆転し、今は私たちが中国の大学の研究費の豊富さに驚く」と証言する。

17年前から中国人研究者と定期交流を続ける橋本和仁・東京大学教授も、ここ数年の研究水準が格段に高まってきたことを肌で感じるという。政府の研究開発投資が増えたのと同時に、それに見合う成果も出始め「研究者が自信を持ち始めた」と話す。

民主化運動や環境汚染などのリスクをはらみながらも、中国の科学技術はこれからも発展を続けるだろう。追い上げられる日本は、台頭する中国とどう向かい合えばよいのだろうか。

橋本教授は、日本人研究者の優れている点として、中国人研究者に比べ視野が広く、プロジェクトの遂行やマネジメントに強い特性をあげる。中国ではまだ、研究者は専門分野に特化して力を発揮する傾向があるため「日本と中国は相互に補えるのではないか」と考えている。

気候変動や感染症対策、データベース整備や標準化など基盤的・基礎的なテーマでは、日中も含めた国際的な協力が不可欠だ。中国の研究リーダーには現在、日本で教育を受けて帰国した40歳代が多く、日本人研究者と個人的なつながりもある。これを生かして日中の協力関係を深めることは重要だ。

有馬朗人・日本科学技術振興財団会長は、日中を含めたアジア地域の研究者がこうした議論ができる「アジア科学技術共同体」(仮称)を創設するアイデアを提唱しており、検討してみてもよいのではないだろうか。

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