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レアアース代替戦略が成果 政府、異例の連携体制

欧米の後手に回ることが多かった日本の資源戦略で、地味ながらも成功といってよい事例がある。ハイブリッド車のモーターなどに使われてきたレアアース(希土類)の代替材料の開発だ。数年前まで大半を中国からの輸入に頼ってきたが、日本の官民を挙げた技術開発が奏功し、ここにきて輸入依存は大幅に減った。そこから何を学べるのか。

12年の輸入量は前年比ほぼ半減

日本のレアアース・レアメタル代替戦略の重点分野
分野主な研究テーマ
磁石材料
  • 高性能磁石に使うジスプロシウムをネオジム合金などで代替
電子材料
  • インジウムの代わりに酸化亜鉛などを使った透明電極
  • 半導体向けガリウム、ヒ素の代替材料
触媒・
電池材料
  • 白金触媒を混合金属や有機物などに代替
  • 2次電池向け新材料
構造材料
  • 高強度鋼材に加えるニオブやモリブデンの削減
レアメタル代替
  • 切削工具のタングステンをチタン系合金に代替
  • 蛍光材料のテルビウムなどに代わる新材料

「米国や欧州、中国も日本のまねをし始めた。日本発のレアアース代替戦略の先見性を物語っている」。東京都内で3月末に開かれた次世代材料のシンポジウムで、奈良先端科学技術大学院大学の村井真二副学長(当時)はこう称賛した。

村井氏が指すのは文部科学省が2007年度に着手した「元素戦略プロジェクト」のことだ。このプロジェクトは高解像度の液晶技術「IGZO(イグゾー)」の開発で知られる細野秀雄東京工業大学教授が「身近な元素から未知の性質を引き出せば、新たな用途が開ける」と提唱し、20を超える大学や企業などが参加。ディスプレー電極に使うインジウムや触媒向けの白金などの代替技術を探ってきた。

なかでも進展があったのが、高性能磁石に不可欠だったジスプロシウムの代替技術だ。日立金属と物質・材料研究機構がネオジム銅合金を使い、高い磁力を保つ新技術を開発。ジスプロシウムが要らない高性能磁石を先駆けて実現した。

その成果が目に見えて表れたのが3年前。沖縄・尖閣諸島をめぐり日中関係が緊迫し、レアアースの世界生産量の9割を握っていた中国が一時、対日輸出を一方的に停止してからだ。

多くの日本企業が窮地に立たされるなか、自動車大手はハイブリッド車向けに新型磁石を即座に採用。家電各社もエアコンや洗濯機のモーターをフェライト磁石などに相次いで切り替えた。こうして脱レアアースが一気に進み、12年の日本のレアアース輸入量は前年に比べほぼ半減。価格も大幅に下落し、市場は落ち着きを取り戻した。

元素戦略はなぜ奏功したのか。それを探ると、2つの要因が浮かび上がる。

まず将来予想される危機を予見し、官民がスピード感をもって対応したことだ。元素戦略が始まった07年は商品市場に投機資金が流入し、資源価格が軒並み急騰した時期。政府はこれに危機感を強め、文科省が代替技術の基礎、経済産業省が応用研究と分担し、異例の連携体制を敷いた。

世界的な研究者らが助言役に

2つめが、日本が素材分野でもつ底力を引き出したことだ。レアアースの代表的な用途の一つが触媒だが、この分野は鈴木章北海道大学名誉教授らノーベル化学賞受賞者を輩出し、日本のお家芸といえる。元素戦略でも触媒分野で世界的に知られる研究者らが助言役になり、技術開発の進め方で知恵を出した。

元素戦略は昨年度から第2期に入り、自動車鋼板などに使う高張力鋼に不可欠なニオブやモリブデンの代替技術を重点テーマに据えた。「いまは安定調達できているが、輸入が特定国に偏りリスクを無視できない」(文科省)からだ。

レアアース対策の成功を他の資源戦略に生かせないか。日本近海でメタンハイドレートの試験採掘が始まり、海底の希少金属資源も相次いで見つかった。これらを商業ベースで採掘できるかは未知数だが、技術力に磨きをかければ輸入品の価格交渉などで有利に働くと期待される。

政府は4月に閣議決定した海洋基本計画で、海底資源開発に向け経産、文科、国土交通省などの連携を求めたが、縦割りを排して効率的な開発に取り組めるかはなお課題が残る。スピード感をもって挑むには、レアアース代替研究から学べる点があるはずだ。

(編集委員 久保田啓介)

[日経産業新聞2013年5月17日付]

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