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環境に優しいのは高炉?電炉? 鉄鋼業界、CO2算出巡り苦悩

世界の産業界で、温暖化ガスの大きな排出源になっている製鉄業。欧州などで製品の環境負荷を明示する動きが加速しており、地球温暖化対策が脱・鋼材の引き金になることを強く警戒している。そうした中、日本鉄鋼連盟が鋼材の環境評価を巡り新たな提案をした。製造時に宿命的に大量の温暖化ガスを放出する高炉材が、電炉材やその他の素材と比べて不利にならないようにする狙いだ。

グリーン調達で電炉材を指定

日本鉄鋼連盟の提案は、世界鉄鋼協会(WSA)が10月末に東京で開いた「LCAセミナー」で披露した。LCAとは「ライフサイクルアセスメント」。製品の生産から廃棄までの環境負荷を総合的に評価しようとする考え方で、例えば自動車なら鋼板や樹脂など素材や部品の製造時から、使用時の燃料消費、解体までの環境負荷を評価しようとするものだ。

ただこうした分析手法が広がれば、鉄鉱石を原料に生産する高炉材は不利になる。石炭を使って鉄鉱石(酸化鉄)から酸素を奪い、鉄を取り出す過程で必然的に温暖化ガスが発生するからだ。なかでも鉄連が強く警戒するのが、鉄スクラップを原料にした電炉材との競合だ。

「グリーン調達の一環で電炉材を指定する動きが出ている」

提案をまとめた新日鉄住金技術総括部の小野透上席主幹は、日本の大手建設会社の例を挙げて危機感をあらわにする。スクラップを溶かして作る電炉材は、大量の電力消費をもってしても、同じ生産量なら高炉より温暖化ガス排出量は少ない。顧客にとっては高炉材を電炉材に切り替えれば、自社製品の環境負荷を減らせる。

今回の鉄連提案のポイントの1つは、スクラップ再利用で減らせる温暖化ガス排出量を、高炉材の環境評価の際にも事前に差し引く仕組み。例えば高炉の熱延鋼板1トンの製造時に生じる二酸化炭素(CO2)は単純計算では1.8キログラム程度になるが、スクラップの「環境価値」を差し引いて0.86キログラムと評価する。高炉材・電炉材の差が埋まり、リサイクル率の高さという鋼材の他素材に対する優位性も生かせる。

 高炉材と電炉材は市場では競合することもある。ただ日本で生じる鉄スクラップは年間3000万トンほど。これだけでは年間6000万トンの内需すら満たせず、実際には両方の産業が併存することで、90%以上という高いリサイクル率の資源循環が成立している。実は鉄連の加盟団体には普通鋼電炉工業会も名を連ねていて、必ずしも鉄連は高炉の利益団体ではない。それでも高炉擁護にも見える主張を掲げるのは、高炉が環境評価の上でも持続可能な扱いを受けなければ、長期的な資源循環が成り立たないという意識からだ。

先進国と新興国の対立のよう

電炉会社のうち東京製鉄は自動車や家電向けの鋼板売り込みで「環境」をキーワードにしている。同社は以前から環境省・経済産業省の統計をもとに「自社の粗鋼生産量当たりの温暖化ガス排出量は高炉平均の4分の1」としているが、今回の鉄連の提案に対しては表だった反論はしていない。

科学的に考えればLCAは生産と消費、廃棄のあらゆる工程で発生した温暖化ガスの総和のはず。だがそれを単純合算するだけでは、経済と環境を両立させながら、鉄の資源循環が維持できない。鉄鋼業を巡る議論は、先進国と新興国の対立にも共通する温暖化対策の難しさを物語っている。

(産業部 檀上誠)

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