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東電リストラ、5人の審判 危機回避に半歩

政府は14日、東京電力福島第1原子力発電所事故の損害賠償を支援する原子力損害賠償支援機構法案を閣議決定した。東電の命運を握る政府支援が実現に向けて前進したが、一息つけるわけではない。16日には東電の経営にメスを入れる政府の経営・財務調査委員会の初会合が開かれ、東電改革がスタートした。メンバーはDOWAホールディングス会長の吉川広和氏ら百戦錬磨の企業再建の経験者。東電の前には5人の"審判"が待ち構えている。

「法案はようやく動き出したが、まだ落ち着かない」。原子力損害賠償支援機構法案が閣議決定された14日、ある東電幹部はそわそわしていた。「兆円単位」の賠償を背負う東電にとって一安心できるはず。にもかかわらず、社内外で「第三者委員会」とも呼ばれる経営・財務調査委員会が今週、いよいよ本格始動するからだ。

委員会の最大の役割は徹底的なリストラによる賠償資金の捻出。東電は資産売却で6千億円以上、2011年度に5千億円以上のコスト削減を打ち出しているが、さらなる上積みを求められることは確実だ。その経営の行方を握るのは、第三者委員会の5人の委員だ。

再生のプロ集結

委員長には企業財務や資産査定に明るい「企業再生のプロ」の下河辺和彦弁護士が就任。NHKやライブドアの調査委員会の委員を務め、企業を外部からチェックする経験も豊富だ。脇を固める実力者の筆頭は、JR東海会長の葛西敬之氏。旧国鉄では「改革三人組」の1人。安倍晋三元首相を囲む勉強会「四季の会」の縁で東電会長の勝俣恒久氏とも旧知の仲だ。

あえてキーマンを1人挙げるとすれば、DOWAの吉川氏だ。その発言は率直だ。

「東電は実質的に破綻した会社と考えて、すべてのステークホルダーが応分の負担をすべきだ」

委員会メンバーに決まった5月下旬。吉川氏には、電力業界側とみられる関係者から「ご説明の申し出」など急接近があったが、考え方の軸は少しもぶれていなかった。

金融機関に対しては、「債権放棄か金利減免なのか分からないが無傷というわけにはいかない」。社員の年収カットについても、「給料を下げてもモラルが下がるということにはならない」。

吉川氏が率いてきたDOWAは連結売上高が約3798億円(2011年3月期)で亜鉛製錬やリサイクル事業を主軸とする。非鉄製錬で大手とはいえ、東電と比べると売上高の規模は14分の1にすぎない。その吉川氏が東電に物申すことができる理由が1つある。自らの経営再建の体験だ。

DOWAはかつて国内に優良鉱山を多く抱えていたが、1985年のプラザ合意後の円高で国内鉱山の競争力低下に見舞われた。90年代を通じて資産の切り売りで、会社の経営をなんとか維持していたが、外部環境は悪くなる一方だった。

「このままでは会社が潰れる」。99年4月に経営企画と管理部門を統括する専務として事業構造改革に着手。希望退職の募集、給与カット、非中核事業からの撤退を次々と決めた。改革案に社内から何度も抵抗にあったが、吉川氏は国内外の70事業所を1年半かけて渡り歩き、社員と直接対話。2002年に社長に就任してからは社員からの手紙すべてに返信を書くなどして社員の心をつかんだ。

「今までやったDOWAの経営改革を東電でも実践してもらえないか」。委員会メンバーを集めた民主党の重鎮、仙谷由人官房副長官から吉川氏の携帯電話に連絡が入った。つきあいの長い仙谷官房副長官からの依頼でもあり、吉川氏は「会社の構造改革は私の得意分野」と即決した。仙谷官房副長官とのパイプは太く、委員会を実質的にリードしていく役回りとも目されている。

むろん、東京大学の松村敏弘教授ら他のメンバーも企業再建や競争政策に詳しく、第三者委員会の調査結果が東電がリストラ計画で示した売却対象資産の精査にとどまるとは限らない。あるメンバーは「発送電分離などの議論も妨げない発想で加わる」と話す。

期待より「投機」

原発賠償法案の概要がほぼ固まった5月中旬から1カ月。政局の混乱で法案がたなざらしになっている間に、電力業界では、第三者委員会の役割や東電の行方を巡り、臆測も含めて様々な見方が飛び交っていた。

「東電を丸裸にして、事業の解体を狙っている」「政府首脳が『委員会のメンバーが東電の経営陣に入る』と発言した」。1つ共通しているのは、東電を巡って今まで決まった話が「絶対」ではなく、いずれ軌道修正されることもありうる、という見方だ。

ある経済官庁幹部は「東電の信用不安があるため、原発賠償法案の成立は急がなければならない。ただ、第三者委員会で東電の資産や事業内容を見極めた後、抜本的な見直しがあるのではないか」と推測する。

東電の株価は14日、原発賠償法案の閣議決定を受け、急騰。終値は値幅制限いっぱいとなる前日比50円高の249円で引けた。それは東電の再建や経営安定への期待感というより、「投機株」となってしまった東電株を巡るマネーゲームの力学が働いた側面が強い。

成立に向けて一歩前進した原発賠償法案は東電の負担総額を定めていない。政府支援を受けて賠償をこなし、原発事故の収束を図っても、経営再建への道のりはあまりに遠い。政官財を巻き込んだ再建の着地点はまだはっきり見えていない。

(大西智也、岩崎航、武類雅典)

[2011年6月15日付 日経産業新聞、一部加筆]

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