「工場」軽視が招いたセイコーの落日
産業部編集委員 安西巧

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2010/5/18 9:00
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両氏に代わってこれ以後20年余りにわたってセイコーを率いてきたのが4月末の人事で和光会長兼社長などグループ要職を解任された服部礼次郎氏(89)。礼次郎氏は和光本店の改装や銀座並木通への新規出店(2008年開業の和光並木館)など「お店」のことばかりに熱心で、製造部門を含むグループ全体の改革・テコ入れは脇に追いやってきたようだ。元秘書室勤務から和光専務、セイコーHD取締役に引き上げ、今回礼次郎氏とともに解任された鵜浦典子氏(53)がグループ人事を牛耳っていたということ自体、「工場」軽視の伝統が払拭(ふっしょく)されていなかった証しといえる。

村野晃一前会長兼社長の解任を発表する服部真二新社長(4月30日、東京都千代田区)

村野晃一前会長兼社長の解任を発表する服部真二新社長(4月30日、東京都千代田区)

創業一族でグループ改革に最も熱心だったのは謙太郎氏の長男の服部純市氏(59)といわれたが、その純市氏も2006年に「独断専行」を理由にSII会長を取締役会で解任され、経営の一線から退いている。今回、礼次郎氏に代わって事実上のグループ「総帥」の座についた服部真二氏(57)は純市氏の弟。経営体質改善の重責を担うことになるが、礼次郎氏と鵜浦氏の問題行為を「長年見て見ぬふりをしてきた」との関係者の指摘もあり、グループ内の求心力を回復できるかどうかには悲観的な見方も少なくない。

ただ、真二氏は2001年から2年間、精工舎の流れをくみ現在はカメラ用シャッターなどを生産するセイコープレシジョンの社長を務めた経験があり、在任中に事業部集約などに力を注いだ。折から、昨年10月にセイコーHDはSIIを完全子会社化し、セイコープレシジョンとの電子デバイス事業の重複解消などが課題になっている。真二氏のトップとしての力量を推しはかる試金石となりそうだ。

セイコーHDの株式時価総額は約430億円(14日終値)。一方、「三男」扱いだったセイコーエプソンは約2900億円で、いまや「生みの親」の7倍近い企業価値を有している。セイコーグループは企業同士に相互の資本関係が希薄で、服部一族個人やその資産管理会社が各社の株式を保有して関係を維持してきた。

アナリストの中にはこうした「資本政策」の不在が求心力を弱め、グループの発展を阻害してきたと指摘する向きもあるが、見方によっては、株式の持ち合い関係がなかったからこそ買収ファンドなどの餌食にならなかったともいえる。セイコーHDがエプソンの親会社だったら、株価低迷を機に買収攻勢が強まり、80代のトップが何年もぬるま湯状態の経営を続ける暇(いとま)はなかったはずだ。

叔父の脱線を修復し、曽祖父や祖父が敷いた「ものづくり」の系譜を再構築できるのか。再生を託された真二氏に残された時間は少ない。

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