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137億年でずれ1秒以下 超精密時計の最前線
編集委員 賀川雅人

2010/8/20 7:00
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 宇宙がビッグバンで誕生してから現在まで約137億年。そんな途方もない時間にわたり動かし続けても1秒もずれない超精密時計を目指した研究が進んでいる。国際標準としての「1秒」の長さを厳密に決めるための技術だ。なぜそこまで正確にするのかとも思えるが、高精度な時計は他の最先端研究の一歩先を行く先導役でもある。

以前に使われていた旧式のセシウム原子時計
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以前に使われていた旧式のセシウム原子時計

 国際度量衡委員会は現在、1秒の長さをセシウム原子が出す規則正しいマイクロ波の振動を元に定義している。これを時計にしたのがいわゆる原子時計。最高レベルの精度は小数点以下15桁(けた)で、約3000万年に1秒の誤差に相当する。

 さらに精密にするため早ければ2019年にも秒の定義を変更しようという動きがある。そのためマイクロ波の代わりに原子が出す光の振動を利用する光時計の研究開発競争が世界で激しくなっている。

 日本では東京大学の香取秀俊教授の「光格子時計」という技術が有力だ。01年に提案した手法で、光格子と呼ばれる状態に多数の原子を閉じ込めることで高精度を実現する。産業技術総合研究所と共同でストロンチウム原子を使った光格子時計の実験に成功。06年に国際度量衡委員会から再定義の候補リストに加えられた。

光格子時計の心臓部である真空容器(奥)。緑の光の中にイッテルビウム原子が浮いているという
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光格子時計の心臓部である真空容器(奥)。緑の光の中にイッテルビウム原子が浮いているという

 産総研は昨年独自に、イッテルビウム原子を使った光格子時計を世界で初めて開発した。まだ60万年に1秒の誤差だが、波長標準研究室の洪鋒雷室長は「改良して候補に入るようにしたい」と話す。

 これとは別に産総研は、独自のストロンチウム光格子時計も開発中だ。現在の基準であるセシウム原子時計が精度15桁なので、これを使う限りそれ以上の精度は分からない。だが、より精度の高いイッテルビウム方式とストロンチウム方式を比較すれば確認できるという。まず17桁を目指す計画。さらに光格子時計は原理的に18桁のレベル、つまり宇宙誕生から動かしても誤差1秒以内が可能といい、これがその次の目標だ。

 いわば究極の超精密時計だ。一般的にはそこまで性能をアップする必要があるように思えないかもしれない。

 ただ「原子時計が登場したときに使い道は不明だった。その後、GPS(全地球測位システム)に役立った」と洪室長は解説する。GPSは人工衛星に搭載した精密な時計で正確な位置情報を提供している。

 究極の18桁の精度とはどのようなものだろうか。アインシュタインの相対性理論では移動速度が速いほど、あるいは重力の影響が大きいほど、時間の進み方が遅くなる。すでにGPSでは相対性理論を考慮した補正をしているという。もっとも人工衛星や宇宙船などでも、ごくわずかしか検出できなかった。

 だが、18桁になると、なんと人が歩く速度でも相対性理論が見えてくるという。

 今後の光格子時計はGPSの高度化や大容量高速通信、相対性理論の検証のほか、重力によるエネルギーの変化を検出することで地下の資源探査や地震研究にも応用できるという。それ以外にもまだ想像できないだけで、産業や社会に革新を起こす未知の利用法が隠れているかもしれない。

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