電動バイクをアジアの「足」に 日本発EVベンチャーの挑戦
テラモーターズの徳重徹社長に聞く
1月11日の日本経済新聞夕刊によると、米国のベンチャー企業が続々と電気自動車(EV)事業に乗り出したという。トヨタ自動車と提携したテスラ・モーターズのほか、ゼネラル・モーターズ(GM)で副会長を務めたボブ・ラッツ氏が取締役を務めるヴィア・モーターズなど新顔が登場し、デトロイト・モーターショーを盛り上げている。
さて、「自動車大国」「エコカー大国」の日本で、EVベンチャーが存在しないとすれば少々寂しいではないか。こんな問題意識で情報を集めると、電動バイクのテラモーターズ(東京・渋谷)という企業がアンテナに引っかかってきた。2010年4月の創業ながら、昨年は国内で電動バイクを約3000台売り、最大手に。米シリコンバレーで起業したばかりの「スタートアップ」企業の支援に携わったこともある徳重徹社長に電動バイクにかける思いや戦略を聞いた。

――創業から2年足らずだが、創業前の想定と実際にやってみて違ったことは。
「電動バイクは中国では年間2500万台市場に育っており、無数のメーカーがひしめいている。日本でも電動バイク市場に誰でも簡単に入れると予想したが、現実は違うことが分かった。日本のバイク販売店などで売ってもらうには欠品を起こさないよう製品在庫を持ち、補修部品も用意しないといけない。これが資金繰りの面で一定の負担になる」
「さらにメンテナンス網を整備し、お客さんに故障したときの安心感を与えることも必要だ。日本でも中国の電動バイクを輸入して売ろうとする業者はいるが、品質問題もあってうまくいっていないようだ。そう簡単に参入・成功できる市場ではない」
――電動バイクの購入者はどんな人か。
「今はエコ意識の高い壮年男性が中心だ。ただ、社会全体に電動バイクを広げるには、単にエコ意識に訴えるだけでなく、さらに強力な一押しがいる。中国で電動バイクが普及したのは、最初は規制がきっかけだったが、そのうちに独自の魅力ができたからだ。価格がエンジンバイクの10万円程度に比べて、2~3万円程度と安く、自転車のようにペダルをこぐ必要がない。従来型のバイクと自転車の間にぽっかりとすき間があり、そのニーズを電動バイクが満たした」
「しかし、日本では電動バイクと普通のバイクの価格差は中国ほどではない。電動ならではの魅力をどうアピールするか、その解を模索しているところだ。今年後半には新型車を投入するが、そこでデザイン面などエンジン車と差をつけられる訴求点を盛り込みたい」
――市場は日本に絞るのか。

「最初は日本市場から入ったが、今年中にもアジア市場に出たい。例えば現在ベトナムで工場を建設しているが、立地の理由の1つは、市場としても非常に有望と考えるからだ。ベトナムは交通渋滞がひどく、富裕な人でも渋滞を悪化させる四輪車に乗るのがはばかられるような状態。そこで円にすれば30万~40万円する高級バイクが飛ぶように売れている。排ガス問題も生じており、こうした市場では電動バイクのニーズも高いと思う」
――日本でベンチャー企業がぶつかる壁は資金と人材の不足といわれるが。
「事業コンセプトが評価され、昨年10月にみずほキャピタルやソニー元会長の出井伸之さんらから総額2億円強の増資を募ることができた。基盤が固まってきたので、必要なら10億円単位の増資も今後は難しくないだろう」
「人材の面でもベンチャーで働きたいという若い人が飛び込んでくる。社員は15人だが、早稲田、慶応、東大といった一流大学の出身者が多い。ある人はいったんディー・エヌ・エー(DeNA)に入社したが、『DeNAは既に大企業。自分が働きたいのは本当のベンチャー』と言って、当社の門をたたいてきた。一方、大手自動車メーカーで電動化の開発に携わってきたベテラン技術者で当社に転職を希望する人もかなりいる。定年を間近に控え、もう一度新天地で好きなテーマを追いかけてみたい、という人たちだ。世の中の情勢が変わり、しっかりしたベンチャーなら人材を確保できる環境が急速に整ってきた」
(編集委員 西條都夫)
資本金は4億3400万円。現在は中国の提携先に生産を委託。今夏に自社のベトナム工場が稼働する予定。主力製品は電動スクーターのSEEDシリーズで、価格は9万9800円から。1回の充電で35~45キロメートル走行できる