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米MITの神髄は「発明か死か」 石井メディアラボ副所長に聞く

「Invent or Die(新しいものを生み出すか、さもなくばやめてしまえ)」――。米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの石井裕副所長は、同校の文化をこう説明する。世界のIT(情報技術)をリードする研究はいかに生まれるのか。17年間メディアラボに在籍し、現実世界とデジタル世界の垣根をなくす研究を続ける同氏に、MITの実像を聞いた。

 ――MITメディアラボの設立から25年が経過した。この間、変わらないことは何か。

「『Invent or Die』、つまり新しいものを生み出すか、さもなければやめてしまえという精神だ。あるいは『Publish or Perish』。論文を出せなければ滅びる、というのもある」

「『Demo or Die』、実際にデモで見せられなければ意味がないという考え方もある。アイデアを生み出すことは重要だが、さらにそれをデモできる、視覚的に見せられるようにする。こうした考え方は一貫して変わっていない」

 ―― 一方で変わったことは。

「ジョーイ伊藤(2011月9月にMITメディアラボの所長に就任した伊藤穣一氏)が持ち込んだ新しいカルチャーだ。オープンにして共有すること。彼はネットの力、オープンの力、ソーシャルによって共有する力を信じていて、そのカルチャーをメディアラボに持ち込んだ」

「今まではスポンサー企業が関与する研究の内容は非公開だったが、これをどんどんオープンにしようとしている。成果もそうだ。さらに外部の人とも議論をしながら、オープンなイノベーション(技術革新)を目指そうとしている」

「彼が来てからメディアラボのカルチャーはずいぶん変わった。メディアラボが開催するほとんどのイベントはネット動画配信サービスのユーストリームで生中継している。さらに世界トップクラスの人物を招待して議論し、その内容も公開している。こうしたオープンイノベーション文化によって『メディアラボ2.0』を作っている」

 ――「タンジブル・ビッツ」という新しいインターフェースの概念を提唱している。

「タンジブル・ビッツとはマウスやキーボードを使った操作ではなく、人が手で直接触れることができる(タンジブルな)操作を可能にする新しいインターフェースを実現する概念のことだ」

「研究の一例が『ミュージックボトル』だ。ガラス瓶の蓋を開けると、ジャズなどの音楽が流れる、というものだ。ガラス瓶をデジタル世界とのインターフェースに変えるプロジェクトだ」

「『サンドスケープ』というプロジェクトもある。砂を敷いた箱の中に作った3次元の形状をコンピューターで読み取り(仮想的な)地形や等高線、風向きなどを砂の上へリアルタイムに描き出す」

「人間の思考や思索自体に関する研究にも取り組んでいる。アイデアをどう表現するか、コンピューターの中のテキストとか紙の上に書いたインクなどではなくて、直接、しかもグループで協調的に操作できる。そういう表現形態を発明している。それによって他人とのやりとりが変化し、人々の思考、特にグループでの思考を劇的に変えられると期待している」

 ――日本のハイテク産業の現状をどう見る。

「日本企業は機器の品質、定量的に測れる性能を最高にすることにこだわりを持っている。一方でユーザー体験(UX)の観点からの品質については、米アマゾン・ドット・コムや米アップルなどのレベルに到達できなかった」

「ただし、どんな技術も永遠に続くわけではない。1970年代は大型汎用機(メーンフレーム)が主流で、細い電話回線を使って音響モデムで通信していた。それがミニコン、パソコン、インターネット、(ネット経由で情報システムの機能を使う)クラウドコンピューティングと、劇的に変化した」

「そうした変化は必ず誰かが仕掛けている。今は米マイクロソフトの基本ソフト(OS)『ウィンドウズ』とアップルの『マックOS』『iOS』、米グーグルのOS『アンドロイド』が世界を制覇している。今後、日本の産業が成長するためには、次の地殻変動を理解して、変化を仕掛けていく必要がある」

「自分で仕掛けていけば、ものすごく大きな機会が生まれる。誰も進出していない『ブルーオーシャン』が開ける。今は悔しいけれども待つしかない。次の地殻変動のためには、長期的な視点での研究が必要だ。だから我々は、今ここで研究している」

 ――大企業がそういうマインドを持つのは難しい。

「そのためのメディアラボだ。実際、韓国のサムスン電子やLG電子だけでなく、東芝もNTTもソニーも、我々の共同作業のメンバーになっている。日本企業の研究員と議論していると『今に見ていろ、挽回してやる』という気概を感じる」

「こうしたマインドを持つ企業に、どんどんメディアラボを訪れてほしい。ともに長期的視点で次の地殻変動を作りたいと考えている」

「メディアラボは、いわば企業にとっての非武装地帯(DMZ)だ。韓国のソウルではサムスンとLGがいっしょになって議論などしないし、東京ではキヤノンとリコーが議論することもないだろう。メディアラボがハブ(結節点)になることによって、競合相手である会社同士が共通の新しい課題を議論する土台ができる」

「こうしたオープンな議論は、お互いにとって価値がある。学びもあれば、次のビジネスの機会も生まれる。そういうイベントを特に東京でしかけている。20社近いメンバー企業がいて、年に4~5回開いている。過去17年、種をまいてきたが、素晴らしいエコシステム(経済圏)ができつつある」

(聞き手は産業部 玉置亮太)

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