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シェール革命、「前のめる」日本 コスト低減、楽観は禁物

米国を起点とする「シェール革命」に日本でも期待が高まっている。割安なシェールガスを米国から持ち込めば燃料コストは下がるはず。導入に向けた動きが加速する一方で、「前のめりすぎ」(エネルギー大手首脳)との声も上がる。シェールガスは何を変えるのか。その実力を冷静に見極めることが必要だ。

電力・ガス各社はシェールガス導入に動いている(東京電力富津火力発電所)

米国からシェールガスを輸入できれば、日本の液化天然ガス(LNG)の調達価格はどの程度下がるのか。日本政策投資銀行の試算がある。

それによれば、2020年時点の調達価格は現状と比べて最大15.2%安くなる。12年の調達費の総額(6兆円)にあてはめると、1兆円減らせる計算だ。しかしこれは理論上の最大値。実際はそう簡単ではない。

米国産のLNGが安いのは、米国の主要なガス価格の指標である「ヘンリーハブ」に連動して価格が決まるため。米国ではシェールガスの生産本格化でガス価格が下がり、原油価格に連動する日本のLNGの輸入価格に比べ3割安い。

15.2%とは、日本企業が関与する米国でのLNG事業に加え、20年までに締結するすべての契約(更改含む)を米国のガス価格に連動した価格で調達できる場合だ。その量はLNG輸入量全体の4割に相当する。

「新規契約なら米ガス価格に連動した契約は可能でも、更改の場合、他の売り先との関係もあり、価格決定方式の変更は難しい」(政策投資銀産業調査部の小野健介調査役)。仮に割安価格での調達が米国産LNGだけになると調達量は約1500万トン。価格の低減は6.8%にとどまる。これを15.2%へと近づけるには「政策的な支援が欠かせない」(同)。

6.8%すら楽観的との見方がある。「20年時点で米ガス価格連動のLNGの輸入量は1000万トンにいかない」と断言するのは商社関係者。米国産だけなら「400万~500万トン」と見る。

日本企業では中部電力と大阪ガス、住友商事と東京ガス、三菱商事と三井物産がそれぞれ、米国でLNGの輸出事業に取り組んでいる。米国政府から対日輸出の許可を得るのもこの3事業が有力とみられている。

注意しなければならないのは、これらの事業が生産量をすべて日本に持ち込むわけではないことだ。たとえば、テキサス州フリーポートで220万トン分のLNGの加工契約を締結した大阪ガスが、自社分として利用を決めているのは50万トン。残りは他社に供給するが、売り先は日本とは限らない。

 シェールガスならすべて安いというわけでもない。米国と同じようにシェール層が広がるカナダでは、太平洋岸でアジア市場を念頭に置いたLNGの輸出計画が多数進むが、米ガス価格連動での契約を明確にしていない事業もある。

欧米メジャー(国際石油資本)はアジアや中東でもLNGを生産する。これらの値崩れを招きかねない米ガス価格での販売には後ろ向きとされる。電力会社の関係者は「購入を打診されるカナダの案件でガス価格連動の提案はひとつもない」と語る。

何より見通せないのがエネルギー価格の行く末だ。市場の展開次第で、米ガス価格連動と原油価格連動のLNGとの価格差は縮まり、逆転すらありうる。

米独立系の資源開発会社GMXリソーシズが1日、米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請した。シェール・ブームの裏で安すぎるガス価格が資源会社の経営を圧迫している。100万BTU(英国熱量単位)あたり3ドル台のガス指標価格は、「中期的に2倍の6ドル程度に上昇する」(商社関係者)との見方が根強い。

米国のガス価格が上昇すれば、米国産LNGの割安効果は薄まる。それでも、6ドルなら天然ガスの液化費用や輸送コスト6~7ドルを加えてもLNGの価格は12~13ドル。日本がアジアや中東から輸入するLNG価格(15~16ドル)に比べると安い。だが、原油価格が1バレル70~80ドルになると、原油価格連動のLNGとの価格差はなくなる。

シェールガスによる調達費の低減をどこまで見込めるのか。今春の電力会社の値上げ審査で、経済産業省と電力会社がぶつかった。

関西電力と九州電力の値上げ申請に対し、経済産業省は燃料費の抑制を促す新しい仕組みを使って審査した。13、14年度に改定を迎えるLNGプロジェクトは、すべての電力会社で最も低い価格水準のみ原価として認め、15年度分はシェールガスの輸入による調達費の低減分を先取りしてさらに低く設定した。

日本のLNG調達価格への影響(2020年時点、調達量の前提8395万トン)
原油価格連動
での調達量
(万トン/年)
米国ガス価格
連動での調達量
(万トン/年)
調達価格の
低減効果
(現状比較)
【シナリオ1】米国からの輸入分等(1520万トン)を米国ガス価格連動で調達68751520-6.8%
【シナリオ2】シナリオ1に加え、20年までに新規に締結する契約(既存契約の更改含む)の半分を米国ガス価格連動で調達59402455-11.0%
【シナリオ3】シナリオ1に加え、20年までに新規に締結する契約(既存契約の更改含む)の全量を米国ガス価格連動で調達50053390-15.2%
【現状ケース】全量輸入原油価格連動8395――――

審査の過程で両社は「15年度にはシェールガスはまだ日本に入ってこない。その影響を価格に織り込むのは難しい」(関電の岩根茂樹副社長)、「シェールガスが入ってきても、輸入開始直後に日本の調達価格に与える影響は限定的」(九電の坂口盛一常務)と反発した。

調達費の低減効果を先取りする手法は、経産省内にも「乱暴だ」との声がある。しかし、電力危機が続く状況で値上げ幅を少しでも抑えるには、原価の3割を占める燃料費に切り込むしかない。認可にあたり、関電で年平均97億円、九電で同104億円の燃料費をさらに減らすよう命じた。

電力会社は調達改革にまい進せざるを得ない。だが、この議論にはブラックボックスがある。値上げ認可の前提とした13、14年度で最も価格の安いLNG調達価格がいくらなのか、シェールガス効果を先取りして決めたという15年度の価格がいくらなのかがわからないのだ。

経産省は「電力各社から非公表を前提に情報を集めており、個別の契約にかかわるため公表しない」(資源エネルギー庁電力市場整備課)と説明する。だが、当事者である関電、九電も燃料費の減額の根拠となる調達価格をいくらで計算したのか、正式には説明を受けていない。

燃料費算定の新方式は値上げを申請済みの東北電力や四国電力、今後値上げを申請するほかの電力会社にも適用される見通し。審査の「ものさし」がわからず、電力会社が調達契約の見直しを進めるのは容易ではない。

電気料金の上昇は家計や企業経営を圧迫し、国民は強い関心を寄せている。値上げ幅の圧縮は歓迎だが、算定根拠を示すことが必要ではないか。そうでなければ政府が先行するシェールガスへの期待を利用していると見られかねない。

燃料費算定の新方式の行方をじっと見つめる業界がある。電力と同様、事実上の地域独占を与えられる代わりに、料金引き上げには政府の認可が必要となる都市ガス業界だ。

欧米と比べ、割高なLNGを調達しているのは都市ガス各社も同じだ。電力の燃料費削減を迫る新方式が、ガス料金の原価算定にも導入されるのではないかと戦々恐々としている。ガス会社の場合、原価に占める原料費の割合は6割と電力に比べてはるかに高い。業界内で最も安い調達価格が原価算定の基準となれば「影響は電力会社の比ではない」(都市ガス大手幹部)。

シェール革命はエネルギー需給を超え、経済や安全保障など様々な分野に変化をもたらしている。日本企業がこの変化をうまくとらえるには、シェールガスだけに過大な期待を寄せるのではなく、これをエネルギー資源の調達先の多様化や、既存の調達先との交渉材料に使う戦略的な発想が欠かせない。

(編集委員 松尾博文)

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