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研究室は「中小企業」に 近畿大が進める新たな産学連携

中小企業の一大集積地である東部大阪地域で、新たな産学連携の仕組みが根付き始めた。舞台は近畿大学大学院に置かれた「東大阪モノづくり専攻」。院生は大学で理論を学びながら、研究テーマに関連する業種の中小企業で実際の研究開発に携わり、給与も得る。大学との関係強化を狙う中小と実践的な研究環境を求める学生を結びつける取り組みだが、修了者の約半数がそのままその中小に勤務するなど、成果も上がってきた。

今年、東大阪モノづくり専攻に入学した今井翼さん(22)が「研究室」を置くのはレーザー加工機製造のレザック(大阪府八尾市)だ。研究テーマとして掲げる「レーザー加工機の高機能化」に取り組むため、入学と同時にレザックに「入社」した。

原則、月~木曜日はレザックに勤務し、金~土曜日に大学で講義や実験、教官の指導を受ける。専攻長の中野人志教授は「インターンシップの短期体験型とは違い、長期実践型の人材育成を目指す」と狙いを語る。

今井さんも「大学での講義に加え、現場でのものづくりを通じて幅広い分野の専門知識を吸収できる」と同専攻の利点を説明。「生活費が確保できるのも魅力」と笑いながら付け加えた。

レザックでは同専攻の開設以来、学生を受け入れている。2005年に同専攻に入学した村松博則さん(31)もその1人だ。大学院修了後、そのままレザックに勤務しており、現在は近大との連携のパイプ役を果たしつつ、加工機の新製品開発に携わっている。

レザックの柳本忠二代表取締役が狙ったのは近大との産学連携による開発力強化。だが、実際に院生の受け入れを続けたことで「学内での当社の知名度向上につながり、近大の理工系の学卒者をうちのような中小でも毎年、採用できるようになった」。人材確保という効果も上がっている。

近大が「教育の産学連携」と銘打って、東大阪モノづくり専攻を開設したのは04年。即戦力となる人材の育成を目指して、同大学院総合理工学研究科が設置した。キャンパスがある東部大阪地域は大阪府東大阪市を中心に幅広い事業分野の中小が立地しており、学生の研究に関し実践の場が周辺に広がっていることに目をつけた。

 大学側が産学連携を希望する企業との間で個々の共同研究テーマを設定。それぞれの研究テーマを選んだ学生の受け入れを企業に依頼する仕組みだ。参画企業には東大阪のほか、大阪市内や大阪府八尾市など学生が通学できる範囲の企業約30社が名を連ねる。研究テーマも「精密機械部品の高度加工システムの開発」から「サプリメント開発」、「中小規模企業における排水設備の設計」まで多岐にわたる。

企業側に呼応するように大学院でのカリキュラムも実践的に設定した。専門分野の理論や実習に加えて、第二専攻を必ず選ばせ、夏季休暇に集中的に講義や実験を実施することで幅広い知識を吸収させる。生産管理や知的財産権、社内でのコミュニケーション論など現場でのマネジメントや起業の際、役立つ科目を課す。

産学連携といえば、企業側が費用負担するのが一般的だが、同専攻の場合、学生の受け入れ企業に対して、大学側が研究開発費として年間250万円を支払うことで中小が参加しやすい環境を整えた。「学生が企業で研究させてもらう以上、大学側も応分の負担をする必要がある」(中野教授)。

現在は今井さんをはじめ、7人が7社に分かれて研究を進めている。学生は学びながら企業から収入が得られるので、優秀ながら家計に余裕のない学生や、一度は社会に出たものの退社して、研究をやり直したい人が大学院の門をくぐりやすくなる。

学生には受け入れ先企業に就職する義務はない。在学中に得た技術やノウハウについて守秘義務を守れば修了後、別の企業に就職しても良いし、自ら起業してもよい。昨年度までに56人の修了者がいるが、レザックの松村さんのように受け入れ企業に引き続き勤務するのは約半数だという。

中小にとっては、産学連携による研究開発力の強化、大学側は人材育成と地域貢献、学生には安定した収入を確保できる「三方一両損」ならぬ「三方一両得」な同専攻。中野教授は「東大阪という地域特性があったからこそ、関係者全員がそれぞれ利点を享受できる仕組みができた」と強調するが、産学連携の新たな形が産業基盤を支える中小再生を後押ししそうだ。

(東大阪支局長 中村厚史)

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