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3Dプリンター、ベテランユーザーの戸惑い

日経ものづくり編集委員 木崎健太郎

クリス・アンダーソン氏が執筆した「メイカーズ」などによって突然脚光を浴びるようになった3D(3次元)プリンター。3Dデータがあれば、その通りの形を樹脂で造形できる。造形サービスを利用すれば、個人が考案した複雑な3D形状の実体を手に入れられることから、アイデア次第でだれでもメーカーになれる可能性が生まれてきた。

大きな可能性を感じる人が増える一方で、古くから3Dプリンターに関わっている人々にとっては違和感があるようだ、という指摘もある。3Dプリンターと呼ばれるようになる前、「Rapid Prototyping装置」や「3D造形機」と呼ばれていた1990年代から先行して利用してきた技術者からは、これまでの苦労をまったく知らない人々が軽薄に騒いでいる、というように見えてしまうのだ。

「これまでの俺の苦労がお前らに分かるか、と面白くない気持ちになるのも分かる」と、3Dコンサルタントでケイズデザインラボ社長の原雄司氏は言う。最近ベテランユーザーはしばしば、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)などの意見交換の場で、新たに3Dプリンターを使ってみようとしている人に向かって、つい「そんな造形には向かない」「もっと勉強してから質問しろ」といった言い方をしてしまう。それに対し原氏は、「せっかくの機運を妨げる要因にならないか心配。ぜひ初心者の人たちに優しく教えてほしい」という。

この「世論」と「専門家」のギャップは、言い換えれば3Dプリンターへの期待の大きさと、現時点での実力のギャップだろう。3Dプリンターの精度向上と低価格化が進み、適用範囲が広がりつつあるのは事実である。「メイカーズ」に書かれている「誰でもメーカーになれる」という主張も、単なる夢にとどまらない説得力がある。何より、このような夢を見られるようになったことは、ベテランユーザーが目指してきた3Dプリンターの技術向上のたまものでもある。そのような状況で「3Dプリンターはそんなに簡単なものではない」などと言ってしまうあたり、ベテランユーザーも複雑な気持ちなのだろう。

さらに「メイカーズ」という言葉に、家電製品やスマートフォンのような「最終製品」を企画、製造する立場、というイメージが付随するのもフラストレーションの原因になる。3Dプリンターで造れるのは「部品」であり、「製品」ではない。部品1個がそのまま製品になるようなものや、数個に分割して造形すれば製品全体が得られるようなものならば3Dプリンターだけで造れるが、多くの場合は電子回路や金属部品を3Dプリンター以外で造ったり、購入してきたりして組み合わせないと、製品にはならない。

 だが、「メイカーズ」が指摘するように、3Dプリンターが身近になれば、ユーザーがものづくりに参加できるようになる。部品だけしか造れなくても、ユーザーがものづくりに参加できるという値打ちが減るわけではない。ユーザーがオリジナリティーのある部品を製品に組み合わせることで、世界に一つしかない製品を得る手段として使える。

3Dデータを用いて造形した部品は、他の部品にガタツキなくぴったりとはまるものができ、それが快感につながると指摘するユーザーもある。既存の製品や部品の3Dデータを取り込んで反転させることによって、どのようにうねっている曲面であっても、そこにぴったりはまる部品を造ることができる。この「ぴったり感」は、部品であればこそ得られる感覚である。

既存の製品メーカーにとっても部品の在庫を持つ必要がない、というメリットにもつながる。3Dデータをインターネット上で公開し、ユーザーが勝手に出力できるようにしておけば、製品メーカーはいつ使われるか分からない部品を造って在庫しておかなくても済む。当面は、製品の安全性に直接影響の及ばないような部品が対象になると考えられるが、究極の在庫削減策になる。

既に、部品を3Dプリンターで造ろうという動きはかなりの例がある。例えば、フィンランドのノキアは2013年1月、ウィンドウズフォン「ルミア820」の背面カバーの3Dデータを公開した。ユーザーは自分の好みに合わせて手を加えることもできる。スウェーデンのティーンエイジ エンジニアリングは自社製シンセサイザーのオプション部品の3Dデータを自社のウェブサイトで公開している。シンセサイザー本体を肩から下げるためのストラップの部品や、音を微妙に調整できるようツマミ類のレバーを長くした部品などだ。米ゼネラル・エレクトリック(GE)が12年に買収した米モリス・テクノロジーズは、金属粉から造形する技術を持つ部品メーカーで、ジェットエンジン向けの部品を製造することになるという。

製品メーカーが部品データを公開することと、ユーザーが部品を"ブラッシュアップ"することは両立できる。「メイカーズ」の世界は当面、製品メーカーとユーザーが部品のデータを仲立ちにして、相互に発展させていく形になるのではないだろうか。

(日経ものづくり2013年4月号に関連記事)

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