さよなら!オープンシステム ITに「垂直統合」の波
コンピューターに新しい波が押し寄せている。異なるメーカーの機器やソフトを組み合わせる「オープンシステム」に代わり、1台に必要な機能をあらかじめ搭載したコンピューターが次々に登場しているのだ。買ってすぐに使え、システム運用の手間もコストも省ける。複雑になりすぎたオープンシステムの時代は終わるのかもしれない。
「今日はIT(情報技術)の歴史的な転換点となる日。創業101年目を迎えたIBMの、次の100年を占う重要な発表になる」――。4月12日に都内で開いた記者会見で、日本IBMの橋本孝之社長(現会長)は大見えを切った。

この日発表した「ピュアシステムズ」は、サーバー、記憶装置、ネットワーク機器、ソフトなど、必要な機能をすべて統合したコンピューターだ。これまでの経験から、顧客が求める数千のシステム構成をパターン化。動作を確認したうえで、工場から顧客に出荷する。
従来型のオープンシステムの場合、設置だけで7日、1台のサーバーを複数台あるかのように使い、サーバーの利用効率を上げる「仮想化」環境が整うまで30~45日はかかる。だが、ピュアシステムズなら、たった4時間で完了する。工場で組み立てと動作確認が終わっているからだ。
ソフトとハードが一体となった「垂直統合機」は、IBMが得意としてきた汎用機に近い。だがひとつ大きな違いがある。汎用機が独自技術なのに対し、ピュアシステムズは、他社のソフトも組み込むことができる点だ。同一メーカーが一体で提供する汎用機の信頼性と、選択肢が多様なオープンシステムの「いいとこ取り」といえる。
垂直統合モデルの先駆けは米オラクルだ。企業向けデータベースや統合基幹業務システム(ERP)ソフトで高いシェアを持つソフト会社だったが、2010年にUNIXサーバー大手米サン・マイクロシステムズを買収。ソフトとハードをともに持つ企業となった。
そこで生まれたのがデータベース専用機「エクサデータ」だ。サンが設計したサーバーに、オラクルのデータベースソフトなどを組み込んだ。一晩かかっていたバッチ処理が10分で終わる高い処理性能が特徴だが、売り物はそれだけではない。垂直統合によるコスト競争力だ。

エクサデータを導入したみずほフィナンシャルグループ(FG)の場合、同等の性能と信頼性を持つシステムを市販のサーバーとデータベースソフトを組み合わせて構築する場合に比べ、構築費用を半減できたという。
仮に不具合が起きても、すべてが自社製のためワンストップでの対応が可能だ。異なるメーカーの製品が混在するオープンシステムではそうはいかない。原因を突き止め、対策を講じるのに相応の時間がかかってしまう。
なぜ垂直統合機か。背景には、この20年間にわたって情報システムの主役であり続けたオープンシステムがあまりにも複雑になってしまったことがある。
オープンシステムはそもそも高性能なシステムを低コストで実現する手段として進化してきた。だが、実際にはPCサーバーを数百台もつなげたシステムを運用するのは大変な手間暇がかかる。「ITの運用管理コストは年々増大し、ITインフラコストの7割を占める企業もある」(日本IBM)。垂直統合機は、システムの運用と維持に終始する現状から脱し、生産性向上や新ビジネス創出という、IT本来の役割に立ち返るツールになり得るのだ。
日本のIT大手も手をこまぬいているわけではない。富士通や日立製作所、NECは2012年度中に、自社のハードとソフトを組み合わせた統合機を投入。先行する外資を迎撃する方針だ。
ただ、垂直統合機はもろ刃の剣となる可能性もはらむ。システム構築と運用に手間やお金がかからなくなるということは、それを収益源としてきた企業にとっては食いぶちを失うに等しい。各社が抱えるシステムエンジニア(SE)やサポート要員をどうするかも課題になる。クラウドコンピューティングがSEの余剰問題を生んだように、垂直統合モデルの台頭もIT企業に構造改革を迫る可能性が高い。
(鈴木壮太郎)
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