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「超臨場感通信」が開く未来のテレビ

安田豊・KDDI研究所会長

テレビとインターネット、そしてスマートフォン(スマホ)との融合をベースとした「スマートテレビ」の開発・実用化の競争が進んでいる。テレビ映像そのものの世界でも、現在のデジタル放送で実用化されている2K(フルハイビジョン)映像に加えて4K(画素数がフルハイビジョンの4倍)や8K(同じく16倍)の超高精細映像が家庭でも楽しめる時代が近くなってきた。

2014年のサッカーのワールドカップブラジル大会や、16年のリオデジャネイロオリンピックでは、これらの試験放送が行われる可能性もある。大きなスクリーンで8K映像などを視聴してみると、現行のメガネ式3D映像に比べてもより自然な形で奥行き感を知覚でき、自分の目で見る実際の世界よりもっとすごい、これまでに体験したことがないような、新しい世界に身を置いている気持ちにもなる。

KDDI研究所では、このような超高精細映像を家庭向けのブロードバンド通信回線でも伝送することを目指して、4Kや8Kのテレビ信号の帯域圧縮技術や、2K信号もあわせた同時伝送技術などの研究を進めている。

それとは別に、複数のカメラで撮影した映像情報をもとに、実際にカメラは置かれていないが視聴者がそこにいたらどのような映像になるかを数値計算で推測して見せてくれる「自由視点映像技術」の研究開発も推進している。

この技術を利用すると、例えば、サッカーの試合で自分自身がピッチの中にいて好きな場所で試合を見ているような映像を楽しむことも可能になる。

現在、一部のテレビ局では、4Kテレビカメラで撮影した日本のサッカー「Jリーグ」の試合映像をもとに、ハーフタイムとか試合後にこの自由視点映像技術を利用してテレビカメラが置かれていない自由な角度(視点)でゴールシーンを振り返るような試みもなされている。

 今後、カメラの数を増やし、かつ自由視点映像生成のための計算時間の短縮を図ることができれば、サッカーや野球などのスポーツ中継を自分の好きな自由な視点でリアルタイムに楽しめるようになるかもしれない。

より狭い空間での中継映像ならばこのような技術の実用化はもっと早く実現可能で、例えばミュージックバンドのスタジオ演奏をスマホやタブレット(多機能携帯端末)で楽しむ場合などは、すでに関連技術の利用が進められつつある。

このような技術は「超臨場感通信」とも呼ばれる。遠く離れていてもあたかもその場に自分がいるような「臨場感」を超えた体験ができる、という意味で使われだした。映像だけでなく、音響効果も重要な役割を果たしており、最近では匂いや触覚などにも訴えるような通信技術の研究も進んできている。

一方で、このような技術によって、リアルな世界とバーチャル(仮想的)な世界の境界が少し曖昧になってきているようにも感じる。「本物よりリアル」というようなことがあるのかどうかわからないが、私たち人間には「未体験のことにわくわくする」という本能的な好奇心が脳に埋め込まれているようだ。

今後、超臨場感通信はバーチャル世界の自由さや楽しさも少しずつ取り込みながら、さらに発展していくことが期待される。

[日経産業新聞2013年3月14日付]

 この連載は変革期を迎えたデジタル社会の今を知るためのキーパーソンによる寄稿です。ツイッター日本法人代表の近藤正晃ジェームス氏、ネットイヤーグループ社長の石黒不二代氏、KDDI研究所会長の安田豊氏、NHNジャパン社長の森川亮氏、ライフネット生命副社長の岩瀬大輔氏らが持ち回りで執筆します。(週1回程度で随時掲載)

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