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「海洋国家ニッポン」へ 環境保全ルールづくり主導を

海底に眠るレアメタル希少金属)などの資源が世界的に注目される中、開発と環境保全をどう両立するかが課題になっている。資源採掘が海の生態系に及ぼす影響は未解明の点が多く、国際的なルールづくりも道半ばだ。メタンハイドレートなどの商業掘削を視野に入れる日本は技術開発に注力するだけでなく、環境保全のルールづくりでも世界を先導してほしい。

熱水鉱床の周囲に独特の生態系

沖縄県沖の熱水噴出孔で見つかったゴエモンコシオリエビの群れ(海洋研究開発機構提供)

太平洋南西部のビスマルク海で、パプアニューギニア政府が進めている鉱物採掘事業に環境保護団体などが反発を強めている。この海域には海底から熱水が噴き出して金や銅、亜鉛などが沈殿してできた「熱水鉱床」があり、資源量は世界有数とされる。

パプア政府は2012年にカナダのノーチラス・ミネラルズ社に採掘権を与え、同社は最大で年130万トンを採掘する計画を表明。これにオーストラリアの環境団体などが「有害な重金属が流出し、漁業や住民の健康に悪影響を及ぼす」とかみついた。だがノーチラス社は環境影響評価書を公表しておらず、議論は平行線をたどっている。

熱水鉱床などの周囲には独特の生態系が育まれている。二枚貝の一種であるシロウリガイやエビの仲間、管に似た形の不思議な生物チューブワームなど、硫化水素やメタンを好む生物が集まり、長い年月をかけて特異な進化を続けてきた。

これらの生物は人間の営みとは無関係のようにみえるが、決してそうではない。深海の生物がつくる有機物は食物連鎖をへて魚の栄養源になる。地球温暖化の原因になる二酸化炭素も大気から海に吸収され、浅海と深海を循環する。生態系が打撃を受けると、食物連鎖や物質循環に様々な影響が及ぶとみられている。

 大陸棚の外側の公海で資源を採掘する場合、国連の専門機関である国際海底機構(ISA、本部ジャマイカ)がルールを決めてきた。02年、マンガンやコバルトが豊富な「マンガン団塊」の採掘時に環境影響評価を義務づける指針を策定。これを鉱物全般に広げた改定指針も近く決まる。採掘が水質や堆積物、生物などに与える影響について詳細な調査を求めている。

14カ国の専門家らが国際組織

だが沿岸国に開発権のある排他的経済水域(EEZ)では環境調査は各国まかせだ。日本など先進国はISA指針に準拠した調査体制を整えつつあるが、パプアニューギニアのように国内規定がない国もある。中国や韓国なども海底資源の開発に乗り出す一方、環境保全の体制づくりや情報開示は遅れている。

世界の海洋研究者らはこれに危機感を強め、日米欧など14カ国の専門家らが国際組織「深海管理イニシアチブ(DOSI)」を4月に設立した。環境保全に関する科学的知見を集めるほか、法律、経済、ビジネスの専門家らも交えて開発と環境を両立させるルールづくりをめざす。

会合に参加した海洋研究開発機構(JAMSTEC)の山本啓之・技術研究主幹は「大学を含め日本の海洋研究の水準は高く、例えば遺伝子解析に基づく生物群の評価手法などを提案できる。国際的なルールづくりを主導できれば、海洋国家ニッポンの存在感を高められる」と話す。

政府は4月に決めた海洋基本計画にメタンハイドレートなどの集中探査を盛った。商業ベースに乗るかは不透明だが、資源確保の選択肢を広げ、海洋権益の拡大をめざす中国などをけん制するためにも技術開発に注力することは不可欠だ。

同時に環境保全への目配りも忘れてはならない。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)や海洋機構など関係機関、産業界が連携を強めて、国内での制度づくりや人材育成を真剣に考えるときだ。

(編集委員 久保田啓介)

[日経産業新聞2013年7月12日付]

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