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褐炭は世界の原料市場を変えるか

ガス化・化学合成で商業化めざす新日鉄エンジ

東日本大震災以降、原子力に代わるエネルギーとして当面、本命の液化天然ガス(LNG)や、太陽光などの新エネルギーに注目が集まる。ただ、今も日本の発電電力量の約4分の1は石炭火力。ほとんどが輸入の石炭の資源確保に向け、未利用の低品位炭(褐炭)を活用しようと、日本の技術をオーストラリアで開花させるプロジェクトが進んでいる。

新日鉄エンジニアリングが中心となり、同国ヴィクトリア州で検討しているのは、褐炭を2階建ての炉でガス化し、合成天然ガス(SNG)やメタノール、水素などをつくる計画だ。地元で利用するほか、日本に輸出する。

日本での実験で世界最高の85%のエネルギー変換効率にメドをつけ、オーストラリアで商業化を目指す。来年度から1日200トン~300トンの石炭を投入する実証炉の設計に入り、2016年度にも稼働させる。実証後はそのまま商業運転に入る予定だ。並行して同1000トン以上の大規模な商業プラントを18年度から建設し、21年度から運転に入る計画だ。

昨年、千代田化工建設と事業化調査をする共同出資会社を設立した。現在はオーストラリア連邦政府、州政府、日本の石炭エネルギーセンター、経済産業省石炭課などと、採算性などを詰めている。商業化をにらみ、日本の都市ガス会社や化学メーカー、産業ガス会社などがワーキンググループに参加し、日本に輸出する場合の受け手として市場性などを検討し始めた。

新日鉄エンジの水野正孝戦略企画センタークリーンコール事業推進部長は「商業化段階では日豪企業によるコンソーシアムをつくり、資源開発から製品に至る一貫したバリューチェーンを構築する」と語る。

同社が開発したECOPRO(エコプロ)と呼ぶ技術は「石炭部分水素化熱分解技術」と呼ばれ、2階建ての下の炉に褐炭を細かく砕いて入れ、酸素を完全燃焼に必要な量の半分程度吹き込み、セ氏1300~1500度程度で部分酸化反応、いわば不完全燃焼を起こす。

上の炉にも褐炭を入れ、下の炉で発生する高温のガスで熱分解し、メタンなど様々なガスを取り出す。下のガス化炉で発生する熱エネルギーを上の炉で利用するのが高効率の秘訣だ。

このガスからSNG、メタノール、アンモニアなどを化学合成し、実証炉では地元に供給、商業炉ではSNGを液化してLNGや、水素、メタノールなどの形で日本に船で運び、発電燃料や化学原料として使う構想だ。

 地元に石炭ガス化複合発電(IGCC)プラントをつくり発電することも可能だ。エコプロは合成ガスの製造効率が従来の石炭ガス化炉より5%程度高いことなどから、CO2排出量を約10%抑制できる。CO2は豪州で分離・回収し、現地のCO2貯留プロジェクトに回す。日本に石炭を輸入して発電するのではなく、LNGや水素の燃料電池に変えるので、日本でのCO2の発生を大幅に減らせる。

発熱量の小さい褐炭と亜歴青炭は低品位炭と呼ばれる。これらが世界の石炭埋蔵量の約半分を占めている。中でも褐炭は石炭化度が低く発熱量が1キログラムあたり2500~4000キロカロリーと小さい。水分が30~60%と高いため輸送に適さず、乾燥すると自然発火しやすいので扱いが厄介だ。

このため褐炭の用途は、ドイツやオーストラリア、インドネシアなどの炭鉱近くの発電用にほぼ限定されてきた。世界市場ではほとんど流通せず、未利用資源とされる。

しかし、原子力発電が使えず、LNGの利用を日本が増やせば、発電コストが高くなるだけでなく、LNG価格の高騰につながる。一方、輸入に頼る石炭は可採年数が石油や天然ガスより長いメリットはあるが、中国などが輸入量を急増している。輸入国の日本は権益確保に失敗すれば、大きなエネルギー源を失う。

褐炭は欠点が多いが、長所もある。発電に使われる歴青炭などより揮発分が多くガス化に向くのだ。特に生成ガスにメタンを多く含み、SNG製造に適しているという。水野部長は「褐炭からSNG、そして液化して日本に持ってくれば、天然ガスの輸入ソースを拡大できる。そのためにも褐炭の権益を押さえることが大事」という。

利用が進んでいない褐炭の新たな活用技術を産炭地に提供し、現地でガス化して合成。石炭の直接的な輸入から、一歩進んだ形でエネルギー源を確保する。

石炭エネルギーセンターの技術開発委員長を務める持田勲九州大特任教授は、「技術や設備を売ったり、発電計画に参加したりすることも重要だが、今後は日本主導で褐炭などの資源を加工して日本に持ってくる形がより重要になる」と指摘する。仮に褐炭の価格が上がっても、ガス化して化学合成する形なら、利益を地元と分け合う体制を取りやすい。

褐炭の利用・研究はIHI神戸製鋼所三菱重工業なども、アジアやオーストラリアで様々なアプローチで取り組んでいる。褐炭資源国のドイツでも利用の歴史は古い。

東京電力福島第1原子力発電所の事故に端を発した、世界的な脱原発の流れで、LNGに続き、石炭、さらに褐炭資源の争奪戦が今後起こる可能性は高い。「すでにインドネシアの褐炭確保に動き出した国がある」との声もある。

どの企業、どの国が未利用資源・褐炭をより効率的に利用するビジネスモデルをいち早くつくり上げるか。あと数年で結果が出るだろう。その結果次第で世界の原料市場も大きく変わってくる。

(産業部 三浦義和)

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