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GM復権、ITでクルマを未来の「秘書」へ

つながるクルマ革命

 世界の二大産業であるIT(情報技術)と自動車の融合がいよいよ本格化してきた。インターネットに常時接続して膨大なデータを瞬時にやり取りできるクルマが登場。目的地を伝えるだけで走り出す「ロボット自動車」や、大都市の渋滞の完全解消なども現実味を帯びてきた。IT・自動車業界共通の一大トレンドになりつつある「コネクテッド・カー(つながるクルマ)」を追った。

2月、バルセロナで開催された携帯電話の国際見本市「モバイル・ワールド・コングレス」。最新鋭のスマートフォン(スマホ)が並ぶなか、1台の白いシボレーがひときわ目を引いた。

高速ネットに常時接続し情報をリアルタイムに

この見本市で、米ゼネラル・モーターズ(GM)は米通信大手AT&Tとの提携を発表した。GMは来年から高速通信サービス「LTE」に常時接続する車を投入する。白いシボレーはそのコンセプトカーだ。ネット経由でどんな環境下でも動画や音楽などが快適に見聞きできるようになる。

将来的には音声認識技術を活用してドライバーとクルマが語り合い、ルート検索や周辺情報をやりとりしたり、車載情報端末に予定を入れておけば、その日のスケジュールを音声で知らせてくれる「秘書」にもなる。

「ITとネットでもう一度、顧客を振り向かせる」。この提携の推進役は米通信大手ネクステル・コミュニケーションズ(現スプリント・ネクステル)など通信業界を渡り歩いてきたGMのダニエル・アカーソン最高経営責任者(CEO)だ。

「そこにイノベーションはあるか」というのがアカーソン氏の口癖。技術者ではないが、最新の技術や消費の動向に常に目をこらし、必要ならば提携や買収で技術や人材を手に入れる。ネクステル時代はトランシーバー型の携帯無線事業が主体だった小さな会社を携帯大手に育てた。

GMに入ってからはトップ直轄の社内ベンチャーファンド「GMベンチャー」を使い、日本では炭素繊維の分野で帝人と組むなどターゲットはITだけにとどまらない。そのアカーソン氏が今、自動車業界の盟主復活の武器に据えるのが「つながるクルマ」だ。

ネットとアプリを軸に盟主復活へ

GMトップ就任で最初に着手したのが傘下の通信サービス会社、オンスター(ミシガン州)だ。1996年にサービスを開始したが、リーマン・ショック後の経営不振などを受けて事業展開が停滞していた。

しかし、通信に明るいアカーソン氏がテコ入れに着手。カーナビなどに限られていたサービスを広げ、盗難された車両を衛星を介して追跡し、減速・停止させるサービスなどを強化した。

オンスターの現在の加入者は600万人。うち400万人以上が年平均200ドル以上支払う有料会員だ。中国ではネットを使いこなす「80后(バーリンホウ)」と呼ばれる80年代生まれのニーズをとらえ、サービス開始から2年間で20万人以上の有料会員を獲得した。

さらに昨年には米デルの上級副社長だったメアリー・チャン氏をスカウト。GMの車載情報サービスを世界規模で管轄する「グローバル・コネクテッド・コンシューマー」担当社長に据えた。同氏は無線技術分野で24年のキャリアを持つIT業界のスペシャリストだ。将来は車載情報端末に内蔵される「GM・アップ・ショップ」と呼ぶ自動車向けアプリ配信サービスも展開する。

ハイブリッド車(HV)など環境対応車でGMはトヨタ自動車など日本勢に後れを取った。しかし、ネットにつながるクルマはカーナビシステムなどに連動させることで渋滞を回避したり、省エネ運転支援など燃費改善にも威力を発揮する。

エンジンなどパワートレインの改良や車体の軽量化といった従来のやり方ではなく「ITやネット、ソフトウエアで車両を制御することで環境問題に違う角度からアプローチできる」(アカーソンCEO)。GMがIT・ネット企業と連携して「つながるクルマ」で盟主復活を狙う理由はここにある。

シリコンバレーが次のデトロイト

「通信技術や自動運転技術を自力で開発できる自動車大手は存在しない。我々は大学の研究所やベンチャー企業と協力する必要がある」。4月の米シリコンバレー。日産自動車のカルロス・ゴーン社長はスタンフォード大学の自動車研究センター(CARS)にいた。同大は全地球測位システム(GPS)や各種センサーで収集した情報を高速処理し、プロレーサー並みのタイムでレース場を走行できるロボット自動車の開発などに成功した実績を持つ。技術の進歩に遅れまいと日産、トヨタ、ホンダの国内大手もこの2年間にシリコンバレーに拠点を新設した。

しかし、ゴーン氏が講演したスタンフォード大はすでに独フォルクスワーゲン(VW)が700万ドル以上を寄付。研究用車両も提供、全自動走行車などの共同開発を進める。5月にはVWのマルティン・ヴィンターコーン社長が同大工学部の顧問への就任を表明するなど関係を深める。

「シリコンバレーは次のデトロイトだ」。独BMW出身でCARSをとりまとめるスヴェン・ベイカー氏は指摘する。次代の自動車開発に欠かせないIT技術や人材などの「金の卵」の争奪戦が水面下で始まっている。

「つながるクルマ」の出現はクルマの新たな使い道を提示するのと同時に、自動車業界の競争の構図を一変させる可能性も秘める。

[日経産業新聞2013年7月11日付]
 日経産業新聞では11日付から4回にわたって1面で「つながるクルマ革命」を連載しています。

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