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創造力スイッチオン!~異次元オフィスにこだわるネット各社

薄暗がりに一筋の光明が見えるまるで暗室のような部屋、昭和の小学校にタイムスリップしたかのような小道具が並ぶカフェ――。日本に拠点を構えるインターネット企業が、こんなユニークな場をオフィス内に相次ぎ設けている。ネット系企業の独創的なオフィスといえば、ビリヤード台を置いたり何でも無料で飲食できたりする食堂を持つ米グーグルが代表格。最新の潮流を追った。

サイバーエージェントが本社内に昨年末に設けた「打開の間」では暗がりで真剣な議論が続く(右奥が藤田晋社長)

東京・渋谷に本社を構えるサイバーエージェントに噂の部屋があると聞いて、特別に入室させてもらった。その部屋に入ると、よく晴れた外が見渡せるはずの窓はすべてブラインドで閉め切られて薄暗い。張り詰めた空気が漂っていた。

この日は、同社が昨年12月にリリースしたスマートフォン(スマホ)向け写真共有サービス「Mono Grapher(モノグラファー)」の開発チームから4人が出席。藤田晋社長ら幹部も同席していた。

壁を突破するための「打開部屋」

担当者「他のユーザーから(いいと思う写真にボタンを押すことで投票する機能の)『ステキ!』を集める作業に冷めてきたユーザーも出てきちゃっているんですよね。アワード(賞)にやりすぎ感がある」

藤田社長「『ステキ!』のさせすぎというのは確かにあるね。きれいな写真をザッピングで、ただシンプルに見たいというニーズもあるんじゃない?」

担当者「ユーザーに(1日に何度もログインして投稿・閲覧するなど)より執着させるために、レベルによって機能に制限を設けるっていうのはアリかと」

藤田社長「いや、強いインセンティブシステムが働いて初めて、その制約は働いていくわけだよ。例えば(ユーザーが自信作の写真を応募して競う)大会にいろんなランクを設ける。ゴルフでいったら、四大メジャーから普段の大会まであるような感じで」

持参したスケッチブックに赤ペンでさらさらと図を描きながら、藤田社長はさらに続ける。

「すっごいランキングが必要なんじゃない? このサービスが誇る人はこちらの『モノグラファー』です、みたいな。"巨匠"ぐらいのインパクトを持たせれば、『いや自分の方がまだまだすごい』という人が挑んでくる。そうやって大会がすごく盛り上がれば、強いインセンティブが働く」

時折、沈黙が空間を支配する。それぞれが手にしたスマホを触りながらユーザーの視線に立ち返り、突破口となりそうなアイデアを発案していく姿は真剣そのもの。議論は1時間にわたった。

 この部屋の名前はずばり「打開部屋」。藤田社長が自ら発案しデザインを監修して、昨年12月に新設した。

天井からつるされた5つの電球を除くと照明はない。真っすぐに並んだこの電球が暗闇の中で一筋の光明に見える――というのがこの部屋に込めた思いだ。

対象は「いまは順調だが、このままいくと成長が鈍り、天井に当たるサービス」(藤田社長)。プロジェクトごとに普段の執務スペースを離れてこの部屋に入り、とことん知恵を出すことを2週間に1回義務付けている。

「打開するまでは出られないのがルール」。藤田社長は言う。袋小路に行き詰まるのではとも思えるが、「だいたいは光明が見える」そうだ。都合がつく限り、藤田社長が同席するのがミソ。数え切れないほどスマホの新規サービスへの審査に携わってきたことで「経験上、カードを何枚か持っている」。

藤田社長は折に触れて助け舟を出しながらも、あくまで現場に考えさせるのが流儀。新機能を付加したり、対象ユーザーを拡大したり、コンセプトをがらりと斬新に変えたり――。打開部屋を出たら、次のステップに移る。

実は、同じフロアに「改善部屋」というもう1つの部屋がある。そこは照明も明るく、カラフルな椅子が並ぶ空間。抜本的な打開の方向性を細かな改善策に落とし込み、次の2週間にサービスに実装する。暗から明へと空間を移動する分かりやすいシーンの切り替えで、当事者意識を浸透させる狙いがある。

LINEの本社オフィスにあるフリースペースからは代々木公園や新宿御苑が眼前に広がり、打ち合わせをしたりくつろいだりできる

アナログなつながりを意識させるLINE

韓国のネット大手NHN傘下のNHNジャパン(東京・渋谷)とLINE(同)も、オフィス空間のユニークさでは負けていない。NHNジャパンはゲーム会社、LINEは大ブームとなった無料通話・チャットアプリ「LINE(ライン)」などを手がけるネットサービスの会社。ともに、昨年オープンした複合商業施設の「渋谷ヒカリエ」内に昨秋からオフィスを構える。

「けんけんぱ」「あみだくじ」「だるまさんがころんだ」――。2社の社員が自由に使えるカフェスペースの床には、懐かしさを覚える子ども遊びの文字が躍る。備え付けられた手洗い場には、小学校の校庭にあったようなレトロな蛇口や赤いネットにつるされたせっけんさえある。ここは食事や休憩だけでなく、社内外のイベントなどにも使う空間。「アナログな感覚を忘れないでほしいという思いを込めた」と、オフィスのデザインや内装を主導したLINEの野村知之マネージャーは語る。

「いまはLINEを使えばすぐに誰でも連絡をとったり会ったりできる。でも、昔は友達との待ち合わせに前々から約束をしたり、仲間同士で一緒にする遊びもやりながらルールを微妙に変えたりしていた」と同マネージャー。LINEにしても今は絶好調をひた走るが、「便利さだけでサービスを追求するのではなく、ユーザーが何を求めているかの感覚に寄り添う会社でありたい」という。

オフィス設計の背骨にあるのは「人と人のつながり」。このテーマは、親しい間柄での密なコミュニケーションを軸に世界中に支持を広げたLINEの世界観にも通じる。

 カフェ奥には窓際に靴を脱いでくつろげる、一段高い小上がりがある。ここはLINEの森川亮社長も「一番のお気に入り」と一押しする場所。体重を預けて休める大きなクッションなどがあり、打ち合わせや食事、プログラミングを行う人も。窓の外には新宿エリアが望める。見下ろすと渋谷のスクランブル交差点が目に入る。最初はこのスペースにはブランコか双眼鏡を置こうかという案があったそうだが、結局このようなつくりに落ちついた。

そのそばには、ブロック型おもちゃの「レゴ」を自由に組み立てて遊べる台が据えられている。事業拡大に伴って両社のオフィスは4フロアにまたがるが、部署やフロアが違う人も自然と距離感を縮められる仕掛けとなっている。

ちなみに執務スペースは「極めて普通」のオフィスだそうだ。働く場所とくつろぐ場所の違いをはっきりさせ、メリハリをつけてもらうためだ。また、カフェで提供する食べ物や飲み物は割安だが有料。米グーグルなどは無料で食べ飲み放題の食堂で有名だが、「甘えがあってもよくない」というのがその心だ。

「ドンマイ」ルームと名付けられたフェイスブック日本法人の会議室

日本テイストを取り入れる米国SNS大手

一方、凝ったオフィスでは定評がある米国勢も、日本のテイストを交え和魂洋才を地でいく。

「ジェットコースター」「フリーダイヤル」「マンツーマン」「ライブハウス」「サラリーマン」――。打ち合わせなどに使う部屋の一つ一つにこんな和製英語で名前をつけたのが、最近オフィスを引っ越したばかりのフェイスブック日本法人(東京・港)。

中には、2人座ればぎゅうぎゅうという部屋も。本国とは住環境も通勤環境も大きく違う日本というマーケットを意識し、遊び心を込めたせいかもしれない。共用スペースにはミニ図書館があり、社員はここから本を借りることができる。書籍の選定などキュレーションは、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の「TSUTAYA」スタッフに依頼しているという。

「昨年末で日本のユーザーは1900万人強。しかも、1日に1回以上ログインする人は51%いる。3年前には全然考えられなかったことだ」。2010年に東京に初めての拠点を設けたときから日本事業を統括する、同社の児玉太郎カントリーグロースマネジャーはこう振り返る。数人のスタッフがマンションの1室にひしめき合う環境から一転。一等地の新築ビルに取引先も招けるオフィスを設けたのは、広告営業など日本での収益化に本腰を入れようという意識の表れだ。

ツイッター日本法人は日本オリジナルの設備として「個室」を設けた

ツイッター日本法人(東京・港)も最近、オフィスを大幅に拡張した。社員は数十人だが、さらなる規模拡大も視野に入れた。そんな同社が4月から新たに始めたのがフリーランチ。外回りの人も多いため、全員が最も集まりやすい毎週月曜日に試験的にケータリングで温かい食事を提供する。米本社も重視するオープンな社風を浸透させるためだ。

一方で、米本社などにはない日本オリジナルの設備を設けた。「フォンルーム」と呼ぶ4つのブースに分かれた個室で、予約制で海外とのビデオチャットや機密性の高い打ち合わせなどに使える。フラットな組織を意識し、同社の執務スペースは役職や部署にかかわらず区切りがない。「プライベートな空間も場面によって欲しいというリクエストに応じた」という。

スマホの普及で、LINEのように日本からも「世界標準」を狙える時代。斬新なサービスを開発して世に送り出すには社員が面白がらなければ始まらない、というのが各社共通の思いだ。たかがオフィス、されどオフィス――。働く人の創造力を駆り立てる舞台装置の進化には終わりがなさそうだ。

(産業部 杉本晶子)

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