広がる最先端コメ作り、GPSや直播き……農機各社が提案
「日本のコメは高い」という常識を覆そう――。農業機械メーカー各社が農家を口説いている。国民1人当たりのコメ消費量は50年前に比べてほぼ半減。国産米の相対取引価格は1キログラム当たり260円前後と、米国と比べ約4倍も高い。環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に日本も参加し、高い関税率で海外のコメを制限するのも難しくなりそうだ。種もみを金属で覆って田んぼに直接まいたり、全地球測位システム(GPS)で農機を管理したり。農機各社の新しい米作りの提案に期待が集まっている。
兵庫県猪名川町。猛暑のなか、青々とした稲が育っていた。農家の男性(58)に聞くと「細い道を挟んで2つのタイプに分かれる」という。栽培している品種は同じ。違いが分からず困っていると、笑って教えてくれた。「こっちは苗から育てた稲。あっちは『じかまき』だよ」
日本の稲作農家の多くは、ビニールハウスなどで種もみを苗に育ててから水田に植えている。狭い水田でも安定的に収穫するために生み出された手法だが、苗を育てるためのコスト負担は重く、コメ価格の高止まりの原因になっている。
農家の男性が口にした「じかまき」は種もみを直接まくことで、漢字では「直播き」と表記する。苗を育てる必要がなく、コストも少なくて済むが、日本の農家は敬遠してきた。土にきちんと埋まらないと、発芽しないリスクが高まり、カラスなどにも荒らされる――。その結果、収穫量が安定しないのだ。これを解決しようと呼びかけているのが、国内農機最大手のクボタだ。
種もみを厚み1ミリメートル以下の金属膜で覆い、その重さで地中にしっかりと埋まる仕組み。独立行政法人である農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の山内稔氏が開発した手法で、金属膜は発芽を妨げない厚みに調整する。農家の男性はクボタの提案を受け入れ、新しい米作りに挑戦中だった。「じかまきは格段に作業が楽。収穫量も変わらないし、現在0.3ヘクタール(3000平方メートル)のじかまきの耕作面積を来年はもっと増やすつもり」と笑う。クボタは9月にも、全自動で種もみに金属膜をつくる機械を売り出す。

クボタと競合するヤンマーも負けてはいない。GPSを搭載したトラクターやコンバインを製造。農機の稼働状況などを掌握して、米作りのムダを洗い出している。
農作業へのGPS活用は、測量機器を手掛けるトプコンやニコン・トリンブル(東京・大田)が先行している。専用の小型装置をつくり、3~30センチメートルの誤差で農機の走行ルートを確認。肥料の投入データなどと組み合わせ、農作業が効率的かどうかを判断している。現在、北海道を中心に3000台ほど導入されている。価格は1台当たり50万円と高額だ。
ヤンマーは販売するトラクターとコンバインに簡易型GPSを取り付けた。精度はやや落ちるが、水田の収穫量と農機の稼働時間を擦り合わせ、効率的な作業を追求する。現時点でGPSの後付けには応じていないが「GPS装置だけに数十万円を投じる必要がない」のが自慢だ。ちなみにデータ管理だけなら年2万円ほどで済む。
ヤンマーの農業ICTソリューショングループは「少ない人数でいかに収益を上げられるか、農業経営をワンランクアップしたい」(伊勢村浩司部長)と話す。同社は7月、農業会計ソフト会社との提携を発表したばかり。他社の技術を取り入れながら、日本の米作りの進化を促していく。

井関農機はプロジェクトチームをつくり、苗の植え付けを間引く「疎植栽培」を指南中だ。通常であれば17センチメートル間隔で苗を植えるが、あえて30センチメートル間隔でまばらに植える。
1坪当たりに必要な苗は通常の3分の2に相当する37株。これにより「苗の栽培に欠かせない資材の費用を5割ほど減らせる」としている。あえて間隔を広げた分、日当たりが良くなり稲はしっかりと成長。台風などでも倒れにくくなり、結果的に収穫量も減らないという。
井関農機のプロジェクト推進部は「できるだけ少ないコストで収量が安定する方法を提案したい」(大込敏夫部長)と意気込む。同社では2年間でコメ、麦、大豆の3作物を育てられるよう、水田の周りに穴を掘って水はけを良くする技術の普及も急いでいる。
農林水産省の統計によると日本の1経営体当たりの耕作面積は2万平方メートル。米国の約80分の1にとどまっており、コスト競争を考えると著しく不利な状況だ。日本のコメを抜本的に安くするには、やはり政府による農業政策の練り直しが必要だ。ただ、前例にとらわれない手法を大胆に取り入れる気概こそ、日本の農家には欠かせない。
(大阪経済部 大西綾)









