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東電の悪夢、問われる原発の合理性 吹き飛んだ2兆7000億円弱
産業部編集委員 安西巧

(2/2ページ)
2011/4/12 7:00
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 震災前に東電は2011年3月期業績を連結売上高5兆3850億円、連結純利益1100億円と見込んでいた。10年3月期時点の株主資本は2兆4657億円、株主資本比率は18.7%、営業キャッシュフローは9883億円と1兆円近くもあった。内外の主要格付け会社が東電の長期債にそろってダブルA以上の高い評価を与えていた。そんな「優良企業」をわずか数日で経営危機に追い込んだのが今回の原発事故である。事業者としての同社の責任や国の責任などは今後司法の場に持ち込まれて裁かれる可能性も高いが、おそらく他の電力各社の経営者は東電の現状を横目に見ながら原発事業の見直しを真剣に考え始めているはずだ。

記者会見を終え頭を下げる東京電力の勝俣恒久会長(3月30日午後、東京都千代田区)
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記者会見を終え頭を下げる東京電力の勝俣恒久会長(3月30日午後、東京都千代田区)

 これまで原発は安全性に難点はあるものの、燃料コストが安く、経済合理性に優れているとされてきた。だが、今回の事故とその後広範な周辺地域に及んだ数万人規模(半径20キロ圏内だけで約8万人)の住民避難、農産物、海産物への被害、そして「最大10兆~11兆円」(外資系証券会社の試算)ともいわれる補償額を考慮すると、「原発の経済合理性」は説得力を持たなくなる。仮に原子力損害賠償法の下で政府が負担を肩代わりするとしても、その原資は税金であり、「社会のコスト」として果たして国民が受け入れるかどうか疑問符がつく。

 なにより、電力会社の経営者が事業上のみならず心理的な“原発リスク”に耐えられなくなる可能性が高い。東電の経営陣は事故発生後の1カ月間、暴落する株価を見ながら株主代表訴訟の悪夢が脳裏をかすめたに違いない。事故のエスカレートによって、もはや資金的にも心理的にも民間企業の経営者が負えるリスクの限度をはるかに超えているように見える。

 事故さえ起こさなければ、原発にはまだ合理性が……という議論があるかもしれない。しかし、この10年間を見る限り、その合理性は大きく揺らいでいる。原発1基あたりの建設費は4000億~5000億円で初期投資は火力発電所の1.5倍。これを40年以上長期運転をすればコスト競争力は高いとされてきた。ところが、原発建設には地元対策として巨額の支援事業(例えば、東電が福島県楢葉町・広野町に130億円を投じて建設したスポーツ施設「Jヴィレッジ」)など見えないコストがあるほか、加えて事故・トラブルが余りにも多すぎる。

 東電に限ってみても、2002年に原発点検時のデータ改ざんが発覚、翌03年には同社の原発全17基が停止を余儀なくされ、その過程で当時の南直哉社長はじめ荒木浩会長、那須翔相談役、平岩外四相談役の歴代社長経験者4人がそろって辞任を余儀なくされている。

 さらに07年の中越沖地震では柏崎刈羽原発1~7号機が全基停止。火災などの被害を受け、08年3月期と09年3月期に合計2500億円の特別損失を計上した。中越沖地震の後遺症は尾を引き、連結純損益も08年3月期は1501億円、09年3月期は845億円のともに赤字。07年3月期に3兆335億円あった株主資本は09年3月期に2兆3786億円と6500億円も目減りした。

 これほどやっかいな原発を電力会社の経営者は「国策事業」として背負い続けていくのか。株主は大事故を起こせば株価が暴落するリスクに耐えられるのか。そして危険を覚悟で事故処理に立ち向かう従業員を今後も確保できるのか――。電力会社のステークホルダーだけでなく、国民全体の電力事業への価値観が見直されるべき時期に来ている。

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