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ロボット技術で農作物 自ら「賢く」

日経ものづくり編集委員 木崎健太郎

ロボット技術を農業に応用するといえば、まず考えられるのが収穫や水やりといった、人手のかかる作業の自動化だ。つまり、人がロボット化の対象になるわけだが、視点を変えて農作物の方をロボットにするとどうなるか。このような研究の成果が出はじめた。

東京農工大学大学院工学研究院先端機械システム部門准教授の水内郁夫氏らのグループは、ブルーベリーの木(灌木)を載せて移動するロボット「Plantroid」を製作した(図1)。太陽電池パネルを貼った六角形の筐体(きょうたい)は、移動のための車輪と周辺の明るさや温度などを検知するセンサー、それに判断機能を備える。正確には農作物そのものではなく、農作物を載せる「植木鉢」のロボットだが、このロボットを使うことで、ブルーベリーの光合成の効率を最適な状態に保つことができる。光のよく当たるところに自ら動いていけるからだ。

図1 植木鉢ロボット「Plantroid」。30キログラムまでの農作物(植物)を載せて、明るい方向に自動的に移動する機能を持つ

「従来は畑として成立しなかった土地で、農作物を育てられる可能性も出てくる」(水内氏)。例えば、午前中は西半分、午後は東半分しか日の当たらない土地があったとする。農作物を植えても半日しか日が当たらないが、このロボットを使えば、農作物を日の当たる側に常に置くことが可能になる。

光のあるところに動くだけではなく、光を避けて日陰に入ることもできる。ブルーベリーの木は温度が上がりすぎるとかえって光合成の効率が落ちることが知られている。そこで、このロボットはブルーベリーの温度をモニターしながら、状況によって日なたに出たり、日陰に戻ったり、といった知的な動き方ができる。

これは、植物である農作物にとっても画期的なことだ。農作物は地面に根を張って動かない存在だが、このロボットによって、あたかも農作物自身が検知、判断、移動の能力を獲得することになる。言ってみれば、動物のような行動が可能になるわけだ。

東京農工大学は長年にわたってブルーベリーの研究を続けており、農学部キャンパス内にブルーベリー専用の実験的植物工場を持つ(図2)。この植物工場は四季の環境を再現した複数の部屋を持ち、ブルーベリーの木を各部屋に移動させることで、生育を促進する仕組みになっている。既に、各部屋の環境の制御と移動のタイミングによって、「1年間に2回の収穫期を迎えるようにできたり、あるいは1年中開花と結実を継続させたりすることによって、自然界の何倍もの収穫量を得られるという研究成果を得た」(同大学院教授で副農学府長・先進植物工場研究施設長の荻原勲氏)。このロボットは部屋の間の移動に使えるが、その際に決められた順番で部屋を移るだけではなく、自らの状態に応じて最も適した環境の部屋を選べるようになる。

図2 東京農工大学のブルーベリー専用植物工場。複数の部屋がそれぞれ、各季節の環境に調整されている

もっとさまざまなセンサーを備えて、例えば水分量、質量、二酸化炭素量、実の色などを検知できるようにした上、判断ロジックを高度化させれば、光合成の最適化以外にもさまざまな可能性が見えてくる。水分量が不足してきたら自ら水源の場所に移動したり、具合の悪いときに診断を要求したり、といったことだ。農作物単体のきめ細かな管理が可能になるメリットがあるのはもちろんだが、表現を変えれば「水を飲みに行く」「医者に行く」といった、動物や人間並みの行動を取れることになる。

さらに、作物を集団として管理することもできる。例えば、相互に譲り合いながら代わる代わる日なたに出たり、病気の情報を互いに共有して感染拡大を防いだりすることで、全体での収穫量最大化を図れる。ここまで実現できれば、いわば家畜の群れに等しい。植木鉢ロボットを放つ土地も、畑というよりも、牧場という方が近いかもしれない。

このロボットの実用化までにはコストをはじめ解決すべきことは多いが、農業におけるものづくり技術の大きな可能性を示す研究と言える。古生代以来何億年も続いた「植物は動かない」という常識さえ、ひっくり返せるかもしれないのである。

(関連記事を日経ものづくり2月号に掲載)

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