海底ケーブルの技術革新、賢くなるネットワーク
安田豊・KDDI研究所会長
インターネットの発展、特に「ユーチューブ」に代表される投稿型動画サイトの急速な利用拡大などにより、通信ネットワークを通過するデータトラフィックが急増し、これが国際光海底ケーブルの新設と、伝送容量の拡大需要につながっている。

学生向けの講義の中で「あなたがスマートフォン(スマホ)でユーチューブの動画を見ると、米国のサーバーに保存されている動画データが日米間の海底ケーブルを通じて、あなたの手の中にあるスマホに送り込まれているのですよ」と説明すると、皆、一瞬不思議そうな顔をする。
最近では、頻繁に見られる人気動画はそのコピーが日本のサーバーにも置かれるようになっており、長距離通信ネットワークを流れるデータ量を可能な限り減らす努力がなされているが、それでも米日間のトラフィック量は今も年率40%のペースで拡大し続けている。
このような動画コンテンツの隆盛とグローバルベースでの大規模データ蓄積・伝送があたりまえとなったクラウド時代の昨今、長距離光海底ケーブルの技術革新も目覚ましい。
光海底ケーブルの大容量化は、1995年に敷設された太平洋横断ケーブル「TPC-5」以降に順次採用された新技術、すなわち、光信号を電気信号に変えずにそのまま増幅する「光直接増幅技術」と、複数の波長の光信号を同時に送受信する「波長多重技術」によるところが大きい。
今や国際通信トラフィックの99%は光海底ケーブルで運ばれており、オリンピックのテレビ中継などにも光ケーブルが広く利用される時代となった。最近では、一本のファイバーの中に複数の光の通り道(コア)を設ける「マルチコアファイバー」などの新技術の研究開発も進んでいる。今後、日米間で100テラ(テラは1兆)ビット級の光海底ケーブルの実現も期待される。
グローバルクラウド時代に求められる、通信ネットワーク大容量化のための技術革新はまだまだ続く。その一方で、スマホや交流サイト(SNS)の利用拡大とともにインターネットでやりとりされるコンテンツの増加もとどまるところを知らない。
それらをうまくさばくために、ネットワークそのものにもスマートさが求められる時代となった。ソフトウエア技術を駆使して、通信ネットワークを流れる情報の優先度付けやネットワークの接続構成そのものをユーザーの要求に応じて柔軟にカスタマイズして提供するSDN(ソフトウエア・ディファインド・ネットワーク)はその一例だ。1台のサーバーが複数あるように見せたり、複数のサーバーを1台のように使ったりする「仮想化技術」の利用も拡大している。
さらに、必要とするコンテンツの名前を指定するだけで、世界中で最も近くにあるものを自動的にダウンロードするCCN(コンテンツ・セントリック・ネットワーキング)という新しい概念をベースにしたスマートネットワークの研究開発も進んでいる。世の中すべて「スマート」があたりまえの時代がすぐそこまで来ている、ということだろう。
[日経産業新聞2013年1月10日付]