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「1皿=80円」時代見据える すしロボット革新

産業部編集委員 中畑孝雄

「80円でも利益が出る体質強化に取り組む」。4月に中期経営計画を公表した業界最大手のトップは語った。円高の試練に直面する製造業ではなく、実は1皿の値段。値下げを視野に入れる徳山桂一カッパ・クリエイト社長の言葉だ。同社が展開する「かっぱ寿司」など回転ずしの低価格戦略に欠かせない「すしロボット」は誕生してから来年30年になる。すしの未来を占う進化とは――。

「どうでしょう、せいぜい600個かな」。すし職人を養成する東京すしアカデミーで客員講師を務める松下良一氏に職人が1時間に何個にぎれるかを尋ねると、すぐにこんな答えが返ってきた。

ホテルなど宴会用の40個盛りなら15桶(おけ)できる。さらにあるチェーンの店長昇格試験は3分間に17皿以上にぎれることが条件だ。1時間に換算すると680個以上になる。「ただ、とてもそこまでは無理」というわけで割り出した数だ。

これに対し、設定した量目に合わせてシャリ玉が自動成形されて出てくるシャリ玉機の生産能力は最大で1時間3600個。シャリ玉に手でネタをのせていく手間はかかるがパートで対応できるためコストを下げられる。

安い均一価格で顧客を呼び込み、労務費を20%程度に抑えつつ店を大型化して収益を伸ばす。この回転ずしの事業モデルを確立するうえでシャリ玉機に代表されるすしロボットの貢献は大きい。

すしロボットで6割強のシェアを誇る鈴茂器工の最新のシャリ玉機は幅35センチメートル、奥行き48センチメートルで高さは58センチメートル。初めて開発した1981年当時の機器と比べ大きさは3分の1になり、成形能力は1秒に1個と3倍に増した。いずれも店舗の生産性向上につながる進化だ。

途中、1999年に商品化した「お櫃(ひつ)型」は見た目にはお櫃だが、中からシャリ玉が1個ずつ出てくる。カウンター内に置くことを想定しており、まだ対面販売が主流だった。

30年近く、「手作り以上のおいしさを求めてきた」と小根田育治社長は言う。職人のすしは空気を含みボリューム感があるが、米粒は少なく口の中で自然にほぐれる。機械でも20グラムのシャリ玉1個が約400粒。ふんわり職人並みの腕前になった。

以前は米粒の密度を一定にして刃で切り分け、量目をそろえた。だが米粒にできた切断面から水分が出て劣化が早まり、おいしさも損なわれる。このため2008年に発売した機種は指のようなくし刃で分ける方式に変えた。

こうした一連の進化の先には一体、どんな革新が待っているのだろう。

回転ずし向けのシャリ玉機は「成形能力をこれ以上引き上げても省力化にならない」と小根田社長は指摘する。人の手が追いつかないためだ。

店側のニーズは手間をかけずにすしの品質を高めることにある。シャリ玉作りとワサビ付けは自動化された。あと残るのはシャリ玉を直径15センチメートルの皿に2個ずつ並べてネタをのせていく手間だ。

それが省け、きれいにそろって置かれるようになれば効率的で、見た目のおいしさが増す。衛生管理の面でも有効だ。システムとしてどう解決するかが、各メーカーの腕の見せどころになる。

先月、農林水産省が発表した10年産の新米の検査結果(9月末時点)によると、色や形が整った1等米の比率は64.4%と99年以降で最低だった。猛暑の影響でコメのひび割れなどが多くなった。

ひび割れするとご飯に余計な粘りが出やすい。小根田社長は「べとつきを少なくするほぐし機構の開発がカギだ」と話す。その意味でもすしの品質、おいしさにつながる進化の比重が増す。

回転ずし以外のすしに目を向けてみると、少し違った進化のありようも見えてくる。

ヘッドホンやマイクロホンなどが強い音響機器のオーディオテクニカ。4月に発売したシャリ玉機「SUSHI-CUBE」は一見コーヒーマシンに間違えられそうな洗練されたデザインだ。

居酒屋や和食レストラン向けで、受け口に手を伸ばすとセンサーが感知して、シャリ玉が自動的に送り出されてくる。

「オーテック」ブランドで販売するすしロボットは本業からは異質な領域に見えるが、進出したのには理由があった。

1982年のCDの登場でレコードプレーヤーのアナログ式ピックアップが不振に陥る事態に備え多角化を模索。「シャリ玉は主力品同様、自動機で製造できると考えた」(松下和雄社長)のだ。

食品スーパーの総菜売り場向けに販売する機種はシャリ玉がターンテーブルに順番に並ぶ。直径がレコードのLP盤とほほ同じなのは偶然としても、準備や後片付けが簡便になるよう部品の数を減らした設計や小型化は「家電の流れから来る特徴だ」(特機部KE営業課の斎藤隆志主務)。

ご飯をまとめながら送る成形ローラー方式は初代から。「ローラーの形状や材質を見直すなどシャリ玉の質を上げる改良も重ねてきた」(特機部技術課の中平陽子氏)。

年間300台の販売を目指すSUSHI-CUBEは幅28センチメートル、奥行き32センチメートルとコンパクトで、店のカウンター内に設置しても違和感がない。これを座席のそばに置き、用意したネタで顧客に楽しくすしに仕上げてもらおうという店が出てきた。

すしロボットの進化によって大衆化したすし。こと国内に限れば安く、早く食べられるだけでなく、シャリの温感や見た目のおいしさ、顧客が自ら作る楽しさも演出する役割を担う。「満腹」だけではない「満足」を高める革新をメーカーは追い始めている。

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